【1月23日 AFP】2002年にパキスタンで誘拐され、殺害された米国人記者ダニエル・パール(Daniel Pearl)氏の事件で殺害犯として服役中の人物が、実際には殺害に関与しておらず、また、真犯人の訴追を米当局が妨害しているとの報告書が、20日に発表された。

 パール氏の事件では、すでに英国系パキスタン人のオマル・シェイク(Omar Sheikh)受刑者ら4人が、パール氏を殺害した罪で有罪判決を受けている。しかし報告書は、パール氏を殺害したのは2001年の9.11同時多発テロを裏で指揮したとされる、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の幹部ハリド・シェイク・モハメド(Khalid Sheikh Mohammed)容疑者であると断定している。

 報告書を執筆したのは米紙ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street JournalWSJ)でパール氏の同僚だったアスラ・ノマニ(Asra Nomani)氏とジョージタウン大学(Georgetown University)のバーバラ・ファインマン・トッド(Barbara Feinman Todd)教授を中心とした調査チーム。ジョージタウン大学の学生32人らも参加した。

 すでにモハメド容疑者は、米捜査員に対して、パール氏ののどを切って首を切断して殺害したと供述している。さらに米連邦捜査局(FBI)のある1人の捜査官も、手の血管の形から個人を特定する生体認証技術を用いて、殺害ビデオの映像に映った手とモハメド容疑者の手が同じものであることを突き止めている。

 にもかかわらず、米当局はモハメド容疑者の訴追を拒否してきた。米当局は、モハメド容疑者を訴追してしまうと同容疑者を含む容疑者5人の同時多発テロに関する裁判が複雑化すると懸念し、「起訴したくないと考えている」とトッド氏は語る。

■パール氏の最後の日々の足どりを調査

 調査チームはパキスタンのカラチ(Karachi)や村落で調査を行い、パール氏の最後の数週間の足どりを追った。

 さらに取材や裁判所文書、非公開のパキスタン警察の尋問調書、FBIの事情聴取記録、米外交公電などの情報を集め、パール氏が最後の日々に誰とどのように過ごしたかわかるように人物の一覧を作成した。

 そこから浮かび上がったことは、パール氏の殺害で有罪となった男4人が「誘拐にも殺害にも直接関与していない」ことだった。

 シェイク受刑者の役割は、パール氏をパキスタンに呼び込むことで、他の受刑者3人は身代金を要求する手紙の作成に協力した。シェイク受刑者はパール氏の身代金交渉を模索しており、いずれパール氏を解放した可能性が高かったという。

 しかしそこに、カラチで記者を拘束しているが「どうしていいかわからない」との連絡をアルカイダ工作員から受けたモハメド容疑者が登場した。「KSM(=モハメド容疑者のイニシャル)がパール氏の殺害を命じられたのかはわからないが、KSMはナイフ2本と肉切り包丁、それにビデオカメラを持って街を歩いていた」という。

 モハメド容疑者はFBI捜査員に対し、「パール氏をプロパガンダのために殺した。ユダヤ人だったのも都合がよかった」と語っている。報告書は、コンドリーザ・ライス(Condoleezza Rice)米大統領補佐官(国家安全保障問題担当、当時)が、事件後の2003年に、パール氏の妻にKSMが「殺害の実行犯」であると告げていたとした。

 トッド氏はAFPの取材に「全体像はかなり明確になったけれど、パキスタン情報機関の三軍統合情報部(Inter Services Intelligence、ISI)の持っている情報がまだ残っている」と語った。(c)AFP/Karin Zeitvogel

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