【12月14日 AFP】世界遺産のイタリアの古代都市ポンペイ(Pompeii)で11月、遺跡の一部があろうことか崩壊した。これをきっかけに同国では、遺跡保存のあり方をめぐる論議が再び活発化し、保存予算の削減は遺跡の劣化を招き得るとの指摘が上がっている。

「イタリアの文化遺産は、まさしく崩れ落ちる瀬戸際にある」と、ポンペイ遺跡の前責任者ピエル・ジョバンニ・グッツォ(Pier Giovanni Guzzo)氏は警告する。西暦79年にベスビオ(Vesuvius)火山の大噴火で葬り去られた古代都市の遺跡は、年間300万人が訪れる世界でも有数の観光地だ。しかし、グッツォ氏いわく「保存に必要な対策は取られてこなかった」。

 ポンペイでは11月末、「道徳家の家」と呼ばれる建物の壁が約12メートルにわたって倒壊した。専門家らは豪雨が続いたことが原因だとしているが、11月6日にも古代ローマの剣闘士たちが住んでいた「剣闘士の家」が全壊したばかりだった。

■予算削減が遺跡を直撃、ポンペイ以外でも・・・

 政府の遺跡保全予算の削減がイタリア各地の遺跡に決定的なダメージを与えていると、グッツォ氏は言う。

 ポンペイだけではない。3月には皇帝ネロ(Emperor Nero)が西暦64年に建設したローマの宮殿、ドムス・アウレア(黄金庭園、Domus Aurea)でも天井の一部が崩れた。その宮殿からほど近い円形競技場遺跡コロッセオ(Colosseum)も、劣化の兆候を示している。

 経済成長が滞る一方、財政赤字はかさむばかりのイタリアは近年、遺跡関連の予算の削減を重ね、2年前には70億ユーロ(約7800億円)だった予算は今年50億ユーロ(約5580億円)まで減らされた。

 こうした予算削減の影響は甚大で、ポンペイの壁や建物の劣化は予算不足の直接的な結果だとグッツォ氏は訴える。「退職したスタッフの補充はなく、遺跡保存に必要なスキルをもつ専門スタッフの数は減る一方だ」

 考古学関係者のみならず、観光業界も危機感を募らせている。伊ツアーガイド協会のマルセラ・バグナスコ(Marcella Bagnasco)会長は、「16世紀の絵画などの芸術だけで済む話じゃない。問題となっているのは数千年の歴史をもつ建造物だ。こうした遺跡の保存のために、国はもっと手を尽くすべきだ」と語る。

■頼みの綱は民間資金

 国内文化遺産の劣化防止を呼びかけている団体ヘリティ(Herity)のマウリツィオ・クァグリウオローロ(Maurizio Quagliuolo)氏は、遺跡の経済的重要性に政府が気付いていないと批判する。「経済が危機にある時に、遺跡はぜいたく品ではなく、むしろ景気回復の牽引力となる。それを政府がいまだ理解していない点が問題だ」

 政府は最近、コロッセオ修復のため民間から資金援助を得ようと試み、失敗した。しかし、グッツォ氏は望みを失っていない。「資金源には困らない。ウェスパシアヌス皇帝が言ったように『金は臭わない』からね。それよりも、民間資金の活用で問題なのは、米国のような民間投資への税制優遇がないことだ」

 こうした中、伊トップ靴ブランド「トッズ(TOD'S)」のディエゴ・デッラ・ヴァッレ(Diego Della Valle)氏が先ごろ、コロッセオの修復費に2500万ユーロ(約27億円)の私財を投じると申し出た。この2000年の歴史をもつ競技場は、当面、ポンペイと同じ崩壊の道をたどらずに済みそうだ。(c)AFP/Sonia Grezzi

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