【12月17日 AFP】為替レートをめぐる米中の「通貨戦争」やユーロの将来の不透明さが、急成長する新興諸国と、景気後退に苦しむ先進諸国との明暗を照らし出している。

「われわれは国際的な通貨戦争のただ中にある。自国通貨を安くしようという戦いだ」と、ブラジルのギド・マンテガ(Guido Mantega)財務相は9月に語った。

「通貨戦争」は、中国やドイツ、日本などの輸出大国と、米国やユーロ圏諸国などの輸出拡大を望む国々との間に隔たりが生じ始めていることを的確に説明する単語として、その後広く用いられるようになった。

■焦点は人民元切り上げ問題

 ことし最も注目された決定は、6月にカナダ・トロント(Toronto)で開かれた20か国・地域(G20)首脳会議(金融サミット)の直前に、中国人民銀行(中央銀)が人民元のドルペッグ(ドルに固定)を撤廃し、変動幅を決めた管理変動相場制への移行を発表したことだ。

 しかし、反応は賛否両論といったところだった。

 米議会は、安く抑えられている人民元のせいで中国が貿易で有利になっており、そのせいで米国内の雇用が失われていると主張してきたが、6月の変更にもその厳しい非難の論調を緩めることは無かった。

 米民主党のチャールズ・シューマー(Charles Schumer)上院議員は、「中国を変え、米国からの富と雇用の流出を防ぐことができるのは中国に対する厳しい措置だけだ」と述べ、中国に対する貿易制裁を主張した。

 外国からの圧力に、10%の成長率を誇る中国は反発した。

 胡錦濤(Hu Jintao)中国国家主席は「中国の現在の政策は明確で責任あるものだ」と述べ、急激な人民元高は「中国の輸出企業の多くを破たんさせ、労働者たちは職を失うことになり、社会の安定維持が困難になる」と反論した。

 6月からの6か月間で、人民元は対ドルでわずか2.5%上昇しただけだった。これに対しては、国際通貨基金(IMF)も「非常に過小評価されている」状態が続いているとの考えを示した。

■「通貨戦争」の犠牲者は日本と欧州?

 一方で、ドルが他の通貨に対して全面安であることから、人民元は対ユーロで4.0%、対円では5.0%上昇した。「通貨戦争」が仮に実際に起きているのだとするなら、欧州と日本は自らをその犠牲者だと考えていることだろう。

 ユーロ圏諸国では、依然として景気回復の兆しがみえていないギリシャやアイルランドなどが、ドイツと通貨を共有する体制に苦しんでいる。2009年には考えられなかったことだが、2010年にはユーロ圏解消の議論さえ始まった。

 一方、日本は9月15日に為替介入を実施して急激な円高の阻止を狙ったが、日本よりもずっと為替介入を行っている国が多いと反論している。

■ドル基軸の通貨制度の危機か

 およそ40年間、世界には変動相場制の国と、中央銀行が管理する固定相場制の国が共存してきた。しかし、このドルを基軸通貨としたシステムは限界を迎えたように思われる。

 仏経済学者のパトリック・アルトゥ(Patrick Artus)氏は自著で、為替システムが原因で各国が大量の通貨を発行するよう動機付けられていると指摘する。

 ドルの需要は無尽蔵なので、米国は「なんのためらいもなく」いくらでもドルを刷ることができるという特権を享受している。その一方で、各国の中央銀行は自国の通貨価値を下げるためにドルを買い続け、米長期国債を中心とした国債の購入に再投資する。そのために中国は人民元を発行し、ブラジルはレアルを発行し、韓国はウォンを発行し続ける。

 このシステムの不安定さについては、米国が自ら疑問を呈するほどだ。米連邦準備制度理事会(Federal Reserve BoardFRB)のベン・バーナンキ(Ben Bernanke)議長は11月、「現状では、国際通貨システムは構造的な欠陥を持っている」と語った。(c)AFP/Hugues Honore