【11月28日 AFP】眉間にしわを寄せ、英語のメニューを見ながら考え込む社員。楽天(Rakuten)本社の社員食堂では、よく見られる光景だ。

 インターネットモール日本最大手の同社は、社内公用語を英語にする方針を打ち出した。海外展開を目指しているためで、同社広報は、競争の激しい業界で生き残るために必要な取り組みだと語る。

 人口が減り、円高が海外企業の買収を後押しするなか、日本企業が生き残るには新興成長市場が欠かせない。ユニクロ(Uniqlo)を展開するファーストリテイリング(Fast Retailing)は、売り上げに占める海外の割合を今後5年で現在の10%から50%に上げる目標を打ち出した。円高は待ったなしで、製造業の海外移転に拍車がかかり、本社を海外に移す日本企業が増える可能性もある。

 そんな環境のなか、日本企業にとって国際的コミュニケーション能力の必要性は高まりつつある。国内市場が縮小しつつある今、海外進出のために英語の社内公用語化を打ち出した企業は楽天だけではない。シャープ(Sharp)は前月、研究開発部門で英語を公用語化する方針を決定。パナソニック(Panasonic)も、来年度の新卒採用の8割を外国人とすると発表した。

■英語の社内公用語化に懸念の声も

 南山大学の吉原英樹(Hideki Yoshihara)教授(経営学)は 、「縮む国内市場、拡大する海外市場」が背景にあると語り、外国人の社員が増えればコミュニケーションに英語を使う機会が増えるのは「当然の結果」と語った。

 しかし英語の社内公用語化が進むと日本人の雇用が減るのではないかとの懸念もある。厚生労働省によると、ことしの大学生の新卒就職率は57.6%で、現在の雇用トレンドが続けばさらに悪化する恐れもある。また、日本語の役割が小さくなれば、英語が得意な海外のライバルに対してかえって不利になるのではないかという意見もある。毎日新聞(Mainichi Shimbun)の調査では、英語の社内公用語化に57%が反対し、賛成の43%を上回った。

 ホンダ(Honda Motor)の伊東孝紳(Takanobu Ito)社長は、 「日本国内で全部、英語なんて馬鹿な話はない」と発言した。東京外国語大学(Tokyo University of Foreign Studies)の鶴田知佳子(Chikako Tsuruta)教授は、「なぜ英語で話す必要があるのか目的をはっきりさせる必要がある。母国語でのコミュニケーションはすばやく正確に情報を伝える、というビジネスにとって不可欠な要素のために大切という面もある」と指摘する。トヨタ自動車(Toyota Motor)を含め、英語の社内公用語化を検討していない企業もある。

■人材を世界に求める動き強まる

 これまでホワイトカラー人材は「日本人の間でグローバルな人材を育成しようとしてきたが、それが変わってきている」と一橋大学(Hitotsubashi University)の一條和生(Kazuo Ichijo)教授は話す。「地域のニーズをくみとるには、地元の優秀な人材を雇ったほうが効率がいい」ということに日本企業が気づき始めたのだという。

 パナソニックのグローバル採用チームリーダーの柿花健太郎(Kentaro Kakihana)氏は、中国西部で洗濯機が衣類ではなくじゃがいもを洗う機械として利用されていたことを例に挙げて、海外のニーズにあった商品開発のために「もっと外国人の同僚がほしい、という声は社内で増えている」と語った。

 英ウェールズ(Wales)出身のハワード・ストリンガー(Howard Stringer)会長兼社長が率いるソニー(Sony)は近年積極的に中国やインドなど新興国のエンジニアを採用している。同社人材開発部統括部長の岸本治(Osamu Kishimoto)氏は、「国籍に関係なく、私たちはいい人材がほしい」と述べた。

■遅れる日本語の国際化

 日本語を国外に広めるという点において、日本は中国に後れをとってきた。日本政府はインドネシア、タイ、ブラジル、ハンガリー、ロシアなどに日本語学校を作り、海外の日本語学校を2007年の10校から今年度中に100校に増やす3年計画を実施中だが、2007年に180校だった中国政府が支援する中国語学校は、前年11月までに550校を超えている。(c)AFP/Kyoko Hasegawa