【11月26日 AFP】ブラジル・リオデジャネイロ(Rio de Janeiro)北部のスラム街で、今週始めに発生した麻薬組織と治安当局の衝突が激化しており、これまでに30人が死亡、都市機能にも混乱が起きている。

 現場はリオで最も治安が悪いとされる大スラム街、ヴィラ・クルゼイロ(Vila Cruzeiro)で、25日現在も銃撃戦の音が聞こえている。街頭からは住民の姿が消え、代わりに装甲車が行き交い、上空をヘリコプターが旋回している。警察によると、応援要請した軍警察や海軍などからも数千人が重武装で展開、さらに1万7500人が出動待機している。

 衝突は21日夜、麻薬組織のメンバーがリオ北部の警察署を襲撃したことがきっかけで始まった。警察の鎮圧作戦に対し、麻薬組織側が各地にある警官の詰め所を機関銃で襲撃するなど応戦、現在も戦闘が続いている。市バス約10台を含む少なくとも60台の車両が放火されたという。

 警察はこれまでに麻薬組織のメンバー30人を殺害、176人を拘束したと発表した。北部を中心にリオの広い範囲で都市機能がまひしており、現地テレビはここ数日間、バスからあがる炎や機動隊の映像に独占されている。

■貧困地区に台頭する新マフィア、W杯・五輪控え対決姿勢

 リオでは総人口の3分の1に当たる約200万人が、市内に1000か所以上存在する「ファベーラ」と呼ばれるスラムに住んでいる。

 住民たちは今回の作戦の規模の大きさに驚いているが、長い間放置されていた麻薬組織にようやくメスが入ったと安堵する声が多い。「麻薬組織と対決するにはこれしかない」「大勢の人間が死ぬだろう。しかし、この町を変えるために必要なことだ」などの反応が聞かれる。

 当局の対策を一層難しくしているのは、リオの組織犯罪に生じた変化だ。警察によると相手は2つの麻薬組織の連合体で、2014年のサッカーW杯と2016年の五輪開催へ向けてブラジル政府が本腰を入れている「浄化政策」への対抗姿勢を鮮明にしている。

 リオの組織犯罪といえば、以前は麻薬カルテルによって支配されていた。それが2000年以降、「民兵」と呼ばれるグループが台頭し、「今の組織犯罪は『民兵』によるものだけだ」とマルセロ・フレイソ(Marcelo Freixo)州議員は言う。

「民兵」らの由来は、1964~85年の独裁政権時代に反対勢力を沈黙させるために動いていた準軍組織の暗殺部隊にさかのぼる。その後は非番の消防隊員や警官、看守などが「民兵」を構成するようになり、ストリートキッズなどを取り締まってきたが、長年、麻薬カルテルよりは「悪質でない」とみなされていた。

 しかしこの「民兵」が、最近になってリオで広く支配力を強め、新マフィア勢力に成長した。2006年には、西部の数か所のスラムに浸透してカルテルを追放し、頭角を現してきた。

 今月発表された報告によると、リオのスラムでも規模の大きい上位250か所のうち100か所以上を「民兵」が支配している。一方、リオ最大の麻薬カルテルが現在支配下に置くスラムは、わずか55か所だ。

■政治にも浸透・・・掃討作戦は根本の解決にならない

 フレイソ州議員いわく「『民兵』たちは街を守ると言って住民からいわゆる『みかじめ料』を徴収しつつ、実際にはガスの供給やミニバス・サービス、ケーブルTVなどを乗っ取った。州当局の手が回っていないあらゆる分野に浸透していった」。最近では麻薬取引よりも、こうしたビジネスのほうが実入りがいいのだという。

 さらに「『民兵』たちは政治にも手を染めている」とフレイソ氏は警戒する。同氏がまとめた報告書によると、自治体の選挙に関与している「民兵」たちは約200人にも上る。報告書の発表後にリーダー数人が逮捕されたが、その中にはリオ市議会議員と自治体の副首長も含まれていた。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)は「民兵」グループの成長について以前から、「何十年もにわたって怠慢、人権侵害、犯罪者の免責に基づいた治安政策を展開してきたツケだ」と批判し、早急な対策が必要だと警告してきた。

 今回の衝突が激化した22日夜、セルヒオ・カブラル(Sergio Cabral)州知事は連邦政府に応援を要請し、以降、リオのスラム20か所に治安部隊が展開している。

 しかし長年、地元警察の手法に批判的なフレイソ氏は、今回の作戦で達成できることはほとんどないだろうと語る。

「警察はヴィラ・クルゼイロに入って、また何百人か殺すことはできるだろう。けれどもリオの問題はそれでは解決しない。銃の引き金を引いている人間と、札束を勘定している人間は別だからだ。スラムの麻薬取引は、貧困によって生まれる犯罪の代表格だ。歯が抜けた、無教養なマフィア像など実際には見たことがない」(c)AFP