【11月17日 AFP】東シナ海や南シナ海では、漁業資源の減少に伴い、日中関係をこじらせる原因となった漁船衝突事件のような出来事が頻発する恐れがあると、専門家らが指摘している。

 この海域における過去の突発的な事件は、いずれも、戦略的な航路をめぐる地域間競争や油田探査に由来したものだった。だが今、日本、中国、台湾、韓国、フィリピン、ベトナムの漁師たちは、生計を立てるために以前にも増して領海の外、そして係争水域に向かいつつある。

 ベルギーにあるブリュッセル現代中国研究所(Brussels Institute of Contemporary Chinese Studies)の研究員、ジョナサン・ホルスラグ(Jonathan Holslag)氏は、「東アジアでは魚が急速に減りつつあり、魚の争奪戦が起きている。漁業は政治問題に発展していく可能性が極めて高い」と警鐘を鳴らす。

 ビンナガマグロは世界でも東シナ海と南シナ海に多く生息しており、キロ当たり約13.5ドル(約1100円)と、中国で一般的な多くの魚種の平均価格の5倍もする。ホルスラグ氏が指摘するように、「リスクを背負うだけの価値はある」のだ。「アジアにおいて魚は一種のゴールドのようなものになってきている」(ホルスラグ氏)。

■背景に漁業資源の減少

 中国の漁師は主に近海で活動するが、特別な許可を中国に出している太平洋のフィジー諸島やトンガ諸島、東アフリカのケニアやタンザニア沖へも出かけていく。  

 だが、東シナ海と南シナ海では、複数のアジアの国々が領有権を主張する係争水域にも彼らは進出している。こうした係争水域の大半は、小さい島々から成り、豊富な漁業資源があるとされる。

 台湾の国立政治大学(National Chengchi University)の客員教授、イブ・ティベルギアン(Yves Tiberghien)氏は、尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島)沖で9月7日に起きた中国漁船と海上保安庁(Japan Coast Guard)巡視船の衝突事件の核心には、減り続ける漁業資源の問題があったと指摘する。

「中国での魚の消費量は増え続ける一方で、東シナ海をはじめとする世界の漁業資源は減り続けている。中国漁船が以前よりも遠くへ、そして係争水域へと進出していくのは当然のことだ」(ティバーゲン氏)

 同氏によれば、8月と9月には、中国・福建(Fujian)省から80隻以上の漁船が、中国と台湾も領有権を主張する尖閣諸島に向かった。

 中国の漁師は何世代も前から尖閣諸島付近で操業してきたが、近年は海上保安庁が厳しく取り締まるようになったという。ベテランのある中国人漁師は、ウェブ上に次のようなコメントを載せている。「海保はもともと、中国漁船にやんわり対応してきたが、2年前から非常に厳しくなった」。別の漁師は次のように書き込んでいる。「釣魚島付近にはたくさん魚がいる。あそこに行くのは愛国心からではない。ただただ、漁をしたいからだ」(c)AFP/Pascale Trouillaud