【10月25日 AFP】内部告発サイト「ウィキリークス(WikiLeaks)」は、これまでで最大のリークとなるイラク戦争をめぐる米軍機密文書40万ページ分を公開してイラク戦争への議論を巻き起こした。その一方で、その謎めいた組織と創設者についての議論も起きている。

 アイスランドのアクレイリ大学(Akureyri University)のビルギル・グドムンドソン(Birgir Gudmundsson)教授(メディア論、政治学)は「機密文書の流出は良いことだ。世界中の政府や当局者に圧力をかけ透明化が進む可能性がある」と評価した上で、「しかし、そういった行為には大変な責任が伴う。(漏えいされた文書は)どういった選別の過程を経たものなのか、またこの組織が最善の選別をしたと信用して良いのか、といった疑問を投げかけることもできる」と語った。

 Stockholm Journalism Schoolのシグルド・アレン(Sigurd Allern)教授(メディア論)も、慎重になるべき理由があるとグドムンドソン氏に同意する。

「メディアリークは、常に目的をもって行われる。いろいろな理由を持って、誰かが特定の情報を流したいと考えるのだ。しかし、われわれがその理由を知ることはほとんどできない」(アレン教授)。

■内部告発の新たな枠組み

 ウィキリークスは2006年の設立以来、米軍のイラク戦争とアフガニスタン戦争の機密文書以外にも、ケニア警察や、サイエントロジー教会(Church of Scientology)、アイスランドの金融危機、キューバ・グアンタナモ湾(Guantanamo Bay)に設置された米国の収容施設などの情報を明るみに出してきた。

 ウィキリークスは短期間のうちにジャーナリズムにおける重要なツールとなり、メディア業界に変革をもたらす可能性を見いだした報道機関は「リーク製造工場」と呼んで称賛してきた。

 グドムンドソン教授も「ウィキリークスができことで、内部告発は制度化された形になっていくのではないか。内部告発がしやすくなり、リークが大幅に増えるかもしれない」と指摘する。

■謎めいた組織

 しかし、内部告発を貫徹するウィキリークス自体の組織や創設者についての情報は、秘密にされたままだ。

 ウィキリークス創設者のジュリアン・アサンジ(Julian Assange)氏(39)は、オーストラリアの元ハッカーということ以外は、謎に包まれている部分が多い。ウィキリークスの組織が結成された経緯も明らかになっていない。アサンジ氏の協力者は、アサンジ氏の「右腕」とされるクリスティン・フランソン(Kristinn Hrafnsson)氏が拠点を置くアイスランドを含めて世界各国にいるという。

 22日夜、AFPの取材に応じたフランソン氏は「ウィキリークスはアイスランドにオフィスを持っていないが、アイスランド内にもウィキリークスのボランティアもいれば(ウィキリークスのために)働いている人もいる」と語った。「氏名を教えるわけにはいかないが、ウィキリークスは世界中で活動しており、特定のオフィスを構えてはいない」という。

 グドムンドソン教授は、情報源秘匿のためにも素性をあまり明かすことができないのは理解できるものの、「とはいえ、(素性がわからないのは)やっぱり少し居心地の悪いものだ」と述べる。「政府であろうとウィキリークスであろうと、必要な透明性を備えていないものに対しては疑ってかかるべきだ」(グドムンドソン教授)。

■機密文書の「信ぴょう性」

 大量の内部文書をどのように取り扱うべきか、という問題もある。

 AFPが数か月前にストックホルム(Stockholm)でアサンジ氏に取材した際、アサンジ氏は、ウィキリークスの公開する資料はすべて信ぴょう性が確認されたものだと述べた。

 しかし、ウィキリークスが保証したとしても「原資料の確認という昔ながらの問題がなくなるわけではない」と語るアレン教授は、ウィキリークスは文書収集の手間を省いてくれるかもしれないが、記者や編集者たちは「それらの文書が本物なのか、記載された情報が正確なのか、自ら調べなければならない」と指摘する。

 また、ウィキリークス自体も、アサンジ氏がスウェーデンで性的暴行をしたとして捜査されていることや、アサンジ氏が協力者から権威主義的だと非難されているなどのスキャンダルの渦中にある。

 グドムンドソン教授は、「事件についての真相は知らない。ただ、そういった議論自体が、ウィキリークスの信頼性を全体として損なうとわたしは考える」と語った。(c)AFP/Agnes Valdimarsdottir