【9月29日 senken h】女性の下着にスポットを当てた、斬新な映画があるのをご存じだろうか。その作品を手がけた新進気鋭の女性監督・岨手由貴子(Yukiko Sode)に、映画と下着について聞いた。

—作品について聞かせて下さい。
岨手監督(以下岨手):主人公は主婦です。旦那さんともうまくいかず、女であることを忘れかけた現在と、まだ自分が女性であることを自覚できていない16歳の少女時代。一人の女性の2つの時代を行き来しながら、あるキーワードに基づいてストーリーが進みます。その大きなキーワードが下着。下着と結びつく出来事から性や自分自身に目覚めていくというストーリーで、テーマは「女性のセクシャル」。対男性ではなく、自分が本来持っているセクシャリティーを描いています。男性目線で言う「エロ」なニュアンスが下着にはありがちですが、そうではなく。女性が性を自覚したり、自分自身を再確認するうえで重要なアイテムであることを表現しました。

—なぜ下着に焦点を当てたのですか。
岨手:私自身が好きなこともありますが、女性のデリケートな内面を表現するのに最適だと思いましたし、この作品で描きたかった世界観と直結するものだったからです。具体的に言うと、日常の中で忘れてしまいそうなセクシャリティーや、まだ目覚めていない少女のセクシャリティーを呼び起こさせてくれるもの。そして、自分しか知らない秘めたるものという部分においてもマッチしました。

—ご自身も好きとのことですが。
岨手:はい、誰かに見せるとか男性に向けてということではなくて。お金がなくても気に入ったものをという価値観をずっと持っていますし、可愛い下着は見ているだけで幸せな気持ちになります。女性のためだけにデザインされたというだけですてき。自分自身が美しくなるために作られたものですからね。

—他作品でもこだわられているのでしょうか。
岨手:前作の『マイム マイム』でも下着のシーンが登場しますが、若い女性が主人公なので衣装は凝りましたし、可愛い下着を身に着けることがいかに楽しいか、ということも撮りたかった。外側からは全然分からなくても、身に着けることで内面が変われる。自分の気分を左右するアイテムだから、もっと選べるし、選んだらもっと楽しいって。今後も下着のシーンを入れていく予定です。

—最後にひとこと。
岨手:女性の監督は男性監督の映画で見過ごされがちな、小さな出来事やひと言を拾って共感を呼ぶような作品を作っていると感じます。いろいろな作品があることが映画にとって一番大切なことと思いますので、私にしか、女性にしか描けない部分を描いていけたらと思います。そして、観てくださった方に楽しく生活が送れるきっかけ作りができたら。この映画を観て、自分も下着にこだわってみようかな、と思ってもらえたらとてもうれしいです。(c)senken h / text:加藤陽美

【プロフィール】
岨手由貴子(そで・ゆきこ)/1983年長野県生まれ。大学在籍中に映画監督・篠原哲雄氏指導のもと短編『コスプレイヤー』を制作、映画祭で入選を果たす。08年には長編『マイム マイム』が、ぴあフィルムフェスティバルで準グランプリ、エンターテインメント賞を受賞。バンクーバー国際映画祭など国内外の映画祭で上映される。昨年、文化庁支援の若手映画作家育成プロジェクト「ndjc」にて35ミリフィルムの短編作品『アンダーウェア・アフェア』を制作。各界から注目を集めている。

【作品情報】
『アンダーウェア・アフェア』
2010年/35mm/カラー/30分、監督・脚本:岨手由貴子、出演:東加奈子、小野ゆり子、綾野剛、広瀬麻由里、山中崇、他(9月9日あいち国際女性映画祭にて上映)

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特集:senken h 106