【9月26日 AFP】このところ自国の主張を強く打ち出すようになった中国を、米国の政策立案者たちはアジアにおける米国の影響力縮小につながるのではないかとの懸念を持って不安げに見守ってきた。

 しかし、尖閣諸島(Senkaku Islands、中国名:釣魚島)沖で海上保安庁の巡視船と中国のトロール漁船が衝突し、日本側が拘束した中国人船長の釈放を中国が求めるという外交騒動を経て、中国の強硬姿勢は米国に絶好の好機をもたらしている。

 中国との問題を抱えるアジア諸国が増える中、米国は今回の問題を機に、敏速にそうした国々の側に立つ姿勢を示した。

 漁船衝突事件について米政府は、尖閣諸島は日本の施政下にあり、同諸島が攻撃された場合には日米安保条約に基づき米軍は防衛義務を負うとの見解を示した。中国が南シナ海における領有権の主張を強めている中、24日のバラク・オバマ米大統領(Barack Obama)と東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳らによる会議では、航行の自由の重要性を再確認する声明が出された。

 韓国海軍の哨戒艦沈没に北朝鮮が関与していると結論付けた米国は、中国の警告を無視し、対抗措置として黄海で米韓合同軍事演習も行った。

■米国に頼りたいアジア諸国、頼られたい米国

「米国人が他国に向かって傲慢だと説教するときにはろくなことがないが、中国は機が至らないうちに傲慢にならないよう気をつけたほうがいい」と、米シンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)」太平洋フォーラムのラルフ・コーザ(Ralph Cossa)氏は指摘する。「南シナ海で中国が力を誇示すればするほど、周辺国は911(米国の警察・消防・救急の緊急電話番号)に電話をかけて、(米海軍)第7艦隊の対応を期待するようになる。日本でも同じだ」

 前年の政権交代後、米国からの「自立」を掲げていた与党・民主党は、菅直人(Naoto Kan)首相に変わり一転、沖縄の基地移設問題で日米合意推進を表明し、改造内閣では対中強硬派と目される前原誠司(Seiji Maehara)氏を外相に据えた。

 米国は東南アジア諸国とも同盟関係を築きつつある。特に歴史的に中国と緊張関係にあるインドネシア、そして以前は交戦相手だったベトナムとの連携強化が顕著だ。

■「米は今後もアジアの主要プレイヤー」

 大統領就任以来、オバマ氏は国際経済の再建や気候変動への取り組みなど幅広い分野で、中国との関係強化を模索してきた。オバマ政権は「中国囲い込み」といった構想の存在は否定している。
 
 しかしカート・キャンベル(Kurt Campbell)米国務次官補(東アジア・太平洋担当)は、米国の影響力は弱まっていると考えていた東南アジア関係者の間で最近見方が変わってきているのを感じると語る。「少なくとも次の40~50年間の大半は、米国がアジアで中心的な地位を占めるだろうという見方が増えている。確かに中国が国際舞台で果たす役割はこのところ非常に大きくなったが、米国が舞台を去ったわけではなく、米国は今後数十年にわたって主要なプレイヤーであり続けるという見方だ」

 米軍はアフガニスタン駐留軍を除いても、アジアに10万人を駐留させている。その大半は日本と韓国にいる。米国防総省の推計による中国の前年の軍事予算は1500億ドル(約12兆7000億円)だが、10月から始まる次年度の米国防予算は7000億ドル(約59兆円)と中国をはるかに上回る。

■中国に「有益な」軍事力活用を求める声

 ジェームズ・スタインバーグ(James Steinberg)米国務副長官は、中国の軍事力拡大は容認しつつも、その軍事力をソマリア沖の海賊対策など「有益な」方法に生かすことを望んでいると述べた。しかし、国防総省が8月に発表した中国の軍事力についての年次報告書によると、中国は台湾に対する軍事的優位をすでに確保し、さらにアジア域内全体への影響力行使を視界に入れている。

 米保守派シンクタンク、ヘリテージ財団(Heritage Foundation)アジア研究センターのウォルター・ローマン(Walter Lohman)所長は、アジアの力関係の変化は米国の政策転換によってではなく、中国が自国の主張を強く打ち出すようになったことでもたらされたと強調する。「中国側は、米国が中国に対抗していると信じているが、彼らは非常に重要な点を見落としている。米国がベトナムや日本に接近したのではなく、ベトナムや日本の方が米国に接近して頼ってきているのだ」(c)AFP/Shaun Tandon