【8月24日 AFP】サスペンス映画の巨匠、アルフレッド・ヒッチコック(Alfred Hitchcock)が初期に手がけたサイレント映画9作品をデジタル版に修復する一大プロジェクトに、英国映画協会(British Film InstituteBFI)が取り組んでいる。

 プロジェクト費用は約100万ポンド(約1億3000万円)。英国のほか、米国、フランス、中国、サウジアラビアなどからも寄付金が寄せられた。

■ ヒッチコック映画修復にかける技術者たちの熱意

 修復作業が勧められているロンドン(London)北西部バークハムステッド(Berkhamsted)のBFIアーカイブ施設では、ヒッチコックの貴重な初期映画フィルムを、映画技術者たちが顕微鏡で念入りに調べている。

 硝酸塩フィルムで撮影された1927年製作の『下宿人(The Lodger)』はフィルムの劣化が激しく、茶色く変色して収縮しているため、特に繊細な配慮が必要だ。技術者たちは、オープニングのクレジット表記の、わずかな傷やしみも見逃さない。

 ヒッチコック監督は、『めまい(Vertigo)』(1958)、『サイコ(Psycho)』(1960)、『鳥(The Birds)』(1963)などの米スリラー映画の巨匠として知られる。

 だが、ハリウッド(Hollywood)でのキャリアを築く、ずっと以前から、すでにヒッチコックは巧妙なプロットを張り巡らせたモノクロのサイレント映画によって、英国では名声を得ていた。後の作品で称賛されることになる彼のサスペンスやミステリー映画手法は、英国時代に磨きをかけたものだ。

 しかし、1920年代に撮られたヒッチコック映画のフィルムは耐性が弱く、劣化の一途をたどっている。このため、BFIは手遅れになる前に、デジタル化することで初期ヒッチコック作品を再生させようと試みた。

 ヒッチコック作品を可能な限り完ぺきな状態で鮮やかにデジタル化し、再び観客がヒッチコック作品に、驚き興奮する日を夢見て、BFIの技術者たちは、とてつもない忍耐を要するクリーニングや修復作業に取り組んでいる。

「世界中から、最良な状態のオリジナル版フィルムをすべて集め、汚れを取り除き、わずかな不良点もできるだけなくし、可能な限りオリジナルに近いものを作っています」とBFIアーカイブの広報担当ブライアン・ロビンソン(Brian Robinson)さんは話した。「まるで昨日撮影したかのように、きれいに修復されますよ」

 ロビンソンさんは、ヒッチコック作品をデジタル時代に対応させ、将来の世代まで残る映画としたいと考えている。修復を終えた作品は、完成版として世界中の映画館で上映可能となるほか、DVDでも新バージョンとしてリリースされるという。

 ロビンソンさんは、修復プロジェクトは英国文化およびサイレント映画史における、画期的な出来事だと、その意義を強調した。

■ 注目作品『山鷲』の現存フィルムは不明

 BFIが修復に取り組んでいる初期ヒッチコック映画は、全9作品だ。このうち『山鷲(The Mountain Eagle)』(1927)は、ヒッチコックが、そのたぐいまれな映像技術を開発した経緯を理解する謎を解くの最後の1片となる作品で、BFIが最も関心を寄せている。だが、BFIがフィルム提供を呼びかけたものの、いまだに『山鷲』の現存フィルムは見つかっていない。

 初期ヒッチコック映画のデジタル・リマスター版は修復が済み次第、順次、リリースされる。それまで、ヒッチコックファンはやきもきしながら待つことになりそうだ。(c)AFP/Robin Millard