【8月24日 AFP】「ほら、あそこにいる」--10頭を超すバンドウイルカの群れに向かって、洋上のゴムボートから指をさす。子連れの母イルカだという。

「成体は3~3.5メートルにも達する。寿命は飼育下で約45年、野生だと10年ほど短くなります」。イタリア北西部チンクエ・テッレ (Cinque Terre)沖でイルカを追うのは、 ジェノバ大学(University of Genoa)大学院生のフルビオ・フォッサ(Fulvio Fossa)さん(35)。2006年以来、雨の日も風の日も休まず週2~3回、2人の同僚と欧州で最も人気のあるジェノバ近郊の水族館、「クジラ目観察センター(Cetacean Observation Centre)」のためにイルカを観察・撮影し、目録を作成している。

■人間とイルカの愛憎の関係

 継続的な観察からはさまざまな発見が生まれている。

 フォッサさんたちは地中海地域のほかの研究グループとも協力し、イルカが睡眠中に片目だけしか閉じていないことを発見した。イルカの脳は一度に片側ずつしか休まないためだった。そして眠りながらも円を描いて泳ぎ続けるという。
  
 イルカと人間のコミュニケーションも大きな研究のテーマだ。イルカにとって環境を汚染し、騒音をたて、餌を枯渇させる人間は最大の敵だ。一方、サバやタイ、メルルーサやコウイカといった漁の獲物と餌が重なるイルカを、漁師は嫌う。「イルカは漁の網を破ってしまう。ここから人間とイルカの愛憎の関係が生まれるのです」

 またイルカは縄張りを意識しているようだという。「フランス南部のコルシカ(Corsica)島周辺のイルカは、このジェノバ湾周辺やトスカーナ(Tuscany)沿岸のイルカとは交わりません」

■これまでに244頭の資料をアーカイブ

 何百枚と撮りだめてきた写真のおかげで、フォッサさんはイルカたちの移動を追跡できている。中にはよく見かけるために名前をつけたイルカもいる。イルカの個体差が分かりやすいのは鼻先よりも、傷などがついている背びれだ。よく見ると形も1頭ずつ違うと、ジェノバの水族館でこのプロジェクトをまとめるGuido Gnoneさん。

 撮影された写真は同水族館に送られ、アーカイブに加えられる。これによって何年にもわたってイルカの動きを追うことができるのだ。現在、写真が収蔵されている個体数は244頭だ。

 水族館の巨大な飼育槽で水しぶきをあげる2頭のイルカを前に、はしゃく子どもたちを眺めながらGnoneさんは「イルカに関するわれわれの知識のギャップを埋める」ことが主な目的だと語った。

 この「クジラ目観察センター」はジェノア南東100キロのトスカーナ州ビアレッジョ(Viareggio)村にあり、申し込めばチームの海上観察に同行できる。(c)AFP/Gildas Le Roux

【参考】イタリア・ジェノバの「クジラ目観察センター」(イタリア語、英語)