【8月25日 AFP】南太平洋の島国バヌアツ。タンナ島(Tanna Island)のヤスール山(Mount Yasur)は、雷のような轟音をとどろかせながら溶岩と火山灰を噴き出し、観光客に熱風を吹き付ける。

 観光客たちは、柵もないクレーターの縁から、煮えたぎる赤いマグマをのぞき込んでいる。地獄の様相を呈した噴火を一目見ようと、夜明け前の闇のなかを多くの観光客が集まってくる。

「ここには何度も来ているけれど、いまだに怖くて仕方がありません」と、地元のツアーリーダーが話す。それもそのはず。火山灰に覆われたクレーターの縁に続く道には、レンガ大から車のドアくらいの大きさのものまで、噴火で飛ばされてきた溶岩があちこちに散らばり、ほとんど通れないほどだ。

 前月に噴出した後、冷えて固まったと思われるお皿大の溶岩を蹴ってどかしながら、ツアーリーダーは、これでもヤスール山の火山活動としては静かな方だと説明する。4段階の活動指数で最低の1なのだという。

 この火山は今年5月に大規模な噴火を起こし、タンナ島を火山灰で覆い尽くした。クレーター付近への立ち入りも禁止された。

■火山が島民にもたらしたもの

 英国の探検家ジェームズ・クック(James Cook)が1774年に初めて「輝く山(=ヤスール山)」を発見して以来、標高361メートルで世界で最も火口に近づくことができるとうたわれるこの山には、多くの観光客が訪れた。

 当局者によると、これまでに火口に落ちて死んだ人はいないが、火山弾に当たって亡くなった人は少なくとも2人いるという。

 ヤスール山は、大噴火により津波を起こしてきたことでも知られる。島民の多くは、伝統的な生活様式を守っているが、降り積もる火山灰でたびたび作物が台無しになるという苦しい現実に直面している。

 道路の整備は進んでおらず、その多くは火山灰により寸断されている。豪雨になれば移動は不可能になり、泥状になった分厚い火山灰が地滑りを起こして村を飲み込む可能性もある。

 だが、火山灰に覆われ火山岩が点在する月面のような大地は、一方で、同国有数の肥よくな土壌を生み出し、コーヒー豆、ココナツ、コプラが栽培されている。

■神とあがめられた山

 ヤスール山の山頂にも夜明けが訪れ、周囲の山々や海が薄闇の中から姿を現す。ふもとの村では、ニワトリがときの声を上げる。

 2人の外国人観光客を連れた地元のガイドが「島民たちはこの山を神とあがめていました」と説明している。昔、この島の住人たちは、たき火や料理に用いる火を、乾いた棒を熔岩に差し込んで取っていた。この時、「ヤスール様、ヤスール様、火をいただきます」と唱えるのが習わしだったという。

 昔ほど神聖な理由ではないが、ヤスール山は今でも島民にとって重要だとガイドは言う。今や重要な観光資源で、年間数百人がタンナ島を訪れる。ヤスール山の噴火を間近で見るツアーは、1人あたり2250バツ(約1900円)だ。(c)AFP/Madeleine Coorey