【8月23日 AFP】2005年8月のハリケーン・カトリーナ(Hurricane Katrina)の襲来後、米ルイジアナ(Louisiana)州ニューオーリンズ(New Orleans)では警官がふたつの事件を起こし、5年経った今も警察の信頼は回復されないまま、同市は全米一の殺人都市と呼ばれるようになってしまった。

 05年8月29日にメキシコ湾から進入し、1500人の死者を出したカトリーナが過ぎ去った後の混乱の中で事件は起きた。

 まずはハリケーンから4日後の9月2日、何者かに撃たれたヘンリー・グローバー(Henry Glover)さん(当時31)が仮設の警察署へ運び込まれたが、警官たちが手当てを拒否し、グローバーさんは出血多量で死亡したとされる。しかもグローバーさんの遺体は数日後になって、燃えつきた車の中で、焼けこげた状態で発見された。

 2日後の4日には、市内の2つのアフリカ系居住区を結ぶ橋、ダンジガー橋(Danziger Bridge)上で警官がアフリカ系市民2人を撃ち殺し、4人を負傷させた。さらに関与した警官たちは廃虚となった警察署で口裏合わせをするなどし、ふたつの事件は隠ぺいさえされた。

 その後、グローバーさんの死に関与したとして警官5人が起訴されたのはこの7月。ダンジガー橋での発砲事件でも同月、別の警官5人が有罪を宣告され、ほかに6人が起訴されたところだ。
 
 しかし「事件の衝撃はあまりに強く、この街の意識を変えてしまった」とニューオーリンズ市警(NOPD)のジェームズ・ヤング(James Young)巡査部長は深刻に語る。「ああした事件は一部の警官の問題で、警察全般はよく仕事をしているという人もいる。けれど、NOPDはすべて一緒だと批判する人もいる」

■殺人率は全米で最悪に、有罪件数も激減

 2010年にニューオーリンズで起きた殺人は200件を超えた。住民1人当たりの割合では全米で最悪だ。目撃者に警察へ来て証言してもらい、裁判へ持ち込むためには、警察の信頼回復がなんとしても必要だ。しかし「カトリーナ以降、これまでに起こった殺人840件のうち、有罪となったものは50件を下回っている」と、米テュレーン大学(Tulane University)の犯罪学者ピーター・シャーフ(Peter Scharf)氏は言う。「ニューオーリンズで人殺しをするなら今が絶好といった状況だ。目撃者がいても、ドラッグの売人たちの仕返しを恐れて、証言しに来ない」

 ミッチ・ランドリュー(Mitch Landrieu)市長はエリック・ホルダー(Eric Holder)米司法長官に送った書簡で、NOPDを「全米で最悪の警察署」と呼び、警察の信頼失墜がもたらした治安の崩壊を訴え、助けを求めた。

 ハリケーンで被害を受けた住宅の多くが今も空き屋のままで、ドラッグの密売や暴力犯罪の温床となっている一方で、デベロッパーによる再建計画はいっこうに進まない。「いい家が建っても、その地域に人に来てもらって、住んでもらわなければ意味がない」とヤング巡査部長が説明する。「人は家を買うだけじゃないんだ。その近所も一緒についてくるのだからね」

 強盗事件が発生したコンビニエンスストアへ急行し、頭から血を流している被害者を保護した後、パトカーへ戻ったヤング巡査は降りだした雨を見て、小さな安堵の息をついた。「これはよかった。雨が降ると、人はこれからやろうとしていた犯罪を止めるものだ」(c)AFP/Matt Davis

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