【8月4日 AFP】世界の海洋生物の多様性や個体数に関する国際調査プロジェクト、「海洋生物センサス(Census of Marine LifeCoML)」の報告によると、世界の海の中で動植物の生存が最も脅威にさらされているのは地中海であることが分かった。2日の米科学誌プロスワン(Public Library of SciencePLoS ONE)にセンサスの結果について10本を超える論文が発表された。

 約1万7000種の海洋生物が生息する地中海は、日本とオーストラリアの近海に次いで、生物の多様性に最も富む海として世界で上位5位に入る。

■数千年におよぶ人間の活動の影響

 しかし同時に人口が密集する陸地に取り囲まれ、年間2億人の観光客が訪れる地中海は、数千年前から人間による開発のあおりを受け、その資源は搾取されてきた。

 沿岸部の徹底的な開発に伴う汚染により、海草やサンゴといった海洋生物の多様性にとって極めて重要な生物の生息環境は著しく失われた。地中海の中でも陸地に挟まれた最も奥にあるアドリア海(Adriatic Sea)などでは、大規模農業や工場排水のせいで酸素不足に陥り、赤潮として知られるプランクトンの異常発生で多くの生物が死に絶えた海もある。

 地中海の生態系を脅かすもう1つの大きな問題は乱獲だ。地中海で繁殖する大西洋クロマグロが乱獲で過去30年で資源量が激減したのはその一例にすぎない。マグロなどの食物連鎖の上位に位置する捕食生物の減少でクラゲが爆発的に増殖し、漁業だけでなく観光にも打撃を与えている。

■世界一の外来種の侵入、進む水温上昇

 地中海では世界のほかの海域に比べ外来種の侵入も際立っており、現在生息する生物の4%を外来種が占めていることが分かった。

 外来種についてはすべてが有害というわけではなく、有力な水産品となっているものもある。しかし微妙なバランスで成り立っている生態系に対する影響は控えめに言っても「予測不可能」で、大きな影響がでる恐れもあると専門家は一様に指摘する。

■海洋環境保全のモデルに

 地中海を脅かしている最大の問題は、地球温暖化による水温の上昇と、海水の酸性化だ。

 その影では、冷水性生物や深海に住む生物の生息環境が縮小している。「(北側は陸で阻まれているため)そのような生物は北上できず激減や絶滅の危機にさらされる」とカナダ・ダルハウジー大学(Dalhousie University)のマルタ・コル(Marta Coll)教授のチームは警鐘を鳴らす。地中海に住む深海生物の4分の3は未発見だと考えられており、発見される前に絶滅してしまう生物もいるだろうと科学者たちは懸念している。

 一方でこの数十年来、外来種の温水性の生物が、スエズ運河(Suez Canal)を通って紅海から地中海に流入している。この現象は「熱帯化」と呼ばれている。

 報告書は「地中海の生物多様性を保全するためには、環境の保護と管理の計画に関する包括的な分析が必要」と忠告し、環境保全の取り組みにおいて、地中海は世界の海のモデルとなりうると締めくくっている。(c)AFP/Marlowe Hood