【7月18日 AFP】3月に米誌フォーブス(Forbes)の世界長者番付でトップに立った推定総資産額535億ドル(約4兆6300億円)のメキシコの通信王カルロス・スリム(Carlos Slim)氏(70)は、自分の月収をわずか2万4000ドル(約210万円)に固定しているという。伝記作家が語った。

 メキシコの携帯電話事業会社アメリカ・モビル(America Movil)の株価が1年間で35%上昇し、スリム氏の持ち分の価値が230億ドル(約2兆円)相当になったことで資産総額が一気に185億ドル(約1兆6000億円)も増えたため、米マイクロソフト(Microsoft)創業者のビル・ゲイツ(Bill Gates)氏を抜いて長者番付のトップに躍り出た。

■非常につましい生活

 しかしAFPの取材に応じた伝記『Carlos Slim, unpublished portrait』(カルロス・スリム、未発表の肖像、2002年)の筆者ホセ・マルティネス(Jose Martinez)氏によると、スリム氏は「特権階級やジェット族、王族などとはまったくほど遠い」非常につましい生活を送っているという。

 スリム氏はたたき上げの実業家だ。1940年1月、メキシコ市(Mexico City)でレバノンからの移民を父に、裕福な家庭の男の子と女の子3人ずつの6人きょうだいの5番目に生まれたスリム氏は、10歳ですでに家族や親戚に菓子や飲み物を売る商才をみせた。大学で土木工学を学んだ後、不況期に積極的に投資し資産を拡大する手腕で知られるようになる。

 1990年には母国メキシコの国営だった電話会社テルメックス(Telmex)を入札により取得した。2009年には経営難に陥っていた米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)に2億5000万ドル(約216億ドル)を出資して同社第2位の大株主となり、メディア関係者を驚かせた。しかしマルティネス氏によるとスリム氏は「発言権も投票権もない。危機的状況にある同紙を支援しただけで、売却するつもりだったが、ニューヨーク・タイムズのグループがまだ回復していない」と言う。

■最近まで安物の腕時計を愛用

 南米では過去10年間に600億ドル(約5兆2000億円)超を投資してきた。メキシコ国内では百貨店から建設会社、金融グループのインブルサ(Inbursa)まであらゆるところにスリム氏の出資する企業がある。

 けれどもマルティネス氏によると、スリム氏は「メキシコ株式市場の30~40%を支配する人物」でありながら、自分の月給を2万4000ドルに固定し、最近までプラスチック製の安物の時計を身につけていた。「政治家とはビジネスはしない」をモットーに、「控えめを越えて禁欲的でさえある」清貧生活を送っている。その質素ぶりは傘下の「帝国」でも変わらず、「中堅幹部から役員まで同じ秘書を共有し、相談役は置いていない」。

  しかし一方でスリム氏は、フランスの彫刻家オーギュスト・ロダン(Auguste Rodin)の作品約300点を含む南米最大のアート・コレクションを所有し、娘に管理を任せている。「わたしも子どもたちも控えめに暮らしているが、それは好みや信念の問題であって、決して自制ではない」とこの富豪は語っている。(c)AFP