【7月8日 AFP】バングラデシュで売春宿を経営するロケヤさん(50)は新たに入った従業員に、ウシを太らせるときに使う薬物、ステロイドを支給する。

 年齢の高い女性では錠剤で十分だが、12~14歳の少女には注射のほうがよく効くとロケヤさんは言う。少女たちは、家族に売られてここにやってきた。「10代の女の子だったら、体つきをよくさせて、本当の年が分からないようにするには一番てっとり早い方法よ」。ステロイドはオラデクソンの商品名で安く簡単に手に入るという。

 しかし英国の慈善団体「アクションエイド(ActionAid)」は、バングラデシュの性産業で働く推定20万人の女性のうち90%が、このオラデクソンなどによるステロイド中毒に陥っている可能性があると警鐘を鳴らす。

 首都ダッカ(Dhaka)から約100キロのファリドプル(Faridpur)県にある政府認可の売春宿で働く900人の女性たちは、ステロイドの長期使用は死に至る危険もあると医師がどんなに注意しても、毎日のようにオラデクソンを使っている。

■やせた体も短期間でふっくら

 従業員のシャヒヌル・ベグムさん(30)がここへ来たのは離婚して破産した後、1人娘を養うためだった。今は入り組んだ売春街の路地裏にある1間のブリキの小屋に住んでいる。月に150ドル(約1万3000円)を稼いでいるが、最初はやせすぎていて客がつかないのではと心配した。

 初めてオラデクソンを使ったのは、宿のマダムに渡されたからだが、体つきはあっという間に豊満になった。そのかわり、薬に病みつきになってしまった。「体はもう風船のようにぱんぱんで高血圧です。医者は止めろといいますが、もう止められないのです」

 宿の喫茶店で売っているオラデクソンは10パック入りで数セント、紅茶一杯よりも安い。

 ベグムさんはこの薬のせいで死んでしまうのではないかと心配している。それでも「7年前に来たときはがりがりだった。けれど娘と母に仕送りをしなければならなかった。『ウシの薬』をやりだしたら、健康的できれいになったわ。今は1日6人のお客をとっている」と話す。イスラム教国のバングラデシュでは、犠牲祭で捧げるウシを太らせるためにステロイドが使われる。

■「ステロイドは自由への近道」

 バングラデシュでは、売春は、政府が認可するいくつかの売春宿では合法とされている。ファリドプルの売春宿は店の裏に隠れて散在しているが、100年以上の歴史を誇る。

 法律では18歳未満の性産業への従事は禁止されているが、多くは18歳に満たない。アクションエイドによると、ステロイドの使用が最も広まっているのはこの10代の少女たちだ。

 バングラデシュの性産業では、従業員は売春宿に拘束され、マダムの「持ち物」として、自分が買われた金を返済していかなければならない。客に好まれる体つきになって多くの客をとることが解放される唯一の道だと、自分もかつては売春婦として働いていたロケヤさんは言う。「自由への片道切符」だからこそ、ステロイド根絶の道は険しい。

 2004年にオラデクソンを常用していた4人の少女が突然、原因不明の死を遂げたことで、バングラデシュの性産業における薬物常用の実態が明るみに出た。「貧しい家庭から来る少女たちはやせ細っていて、栄養失調。客を取るためにはさっさと太らないといけない。オラデクソンは魔法のようだというのが業界の常識」と、アクションエイドのZahid Hossain Shuvoさんは語る。

■数か月の常用で深刻なステロイド中毒に

 ステロイドは関節炎や甲状腺機能の治療などに使われるが、適切に使わないと副作用が深刻だ。ファリドプルの国営病院に勤めるカマル・ウディン・アーメッド(Kamal Uddin Ahmed)医師は、「ステロイドは2~3か月使い続けるだけでもたいへん危険。なのにファリドプルの女性たちは何年も使っているから、今健康面でそのツケを払わされている」と言う。しかし、中止すれば頭痛や発疹などの禁断症状が出る。

 法律上は医師の処方箋がないとステロイドは売れないことになっているが、実際にはほとんど無視されている。

 簡単に手に入り、中毒になり、商売にも弾みがつくとなれば、バングラデシュの売春婦たちがステロイド常用を止めることなどありそうにない。ベグムさんは訴える。「薬が体に悪いのは知ってるわ。けれど止めるほうがもっと悪い。具合が悪くて働けなくなったら、誰が娘を育てるの?」(c)AFP/Shafiq Alam