【6月30日 AFP】(写真追加)米国内でロシアの諜報員らが暗躍していたとされる事件で、米連邦捜査局(FBI)に逮捕された諜報員の1人で28歳の魅惑的な女性スパイの写真が米英大衆紙の1面を賑わせている。

 この女性スパイはアンナ・チャップマン(Anna Chapman)容疑者(28)。ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)大手フェースブック(Facebook)に自身が掲載していた写真を、29日のニューヨーク・デーリーニュース(New York Daily News)などが掲載した。

 FBIは2010年1月から6月までに10回、いずれも水曜日に、チャップマン容疑者がロシア対外情報局(SVR)の指示を受けるため、複雑な手順で当局者と接触する様子を監視していた。その様子は、冷戦時代の英国人作家、ジョン・ル・カレ(John Le Carre)のスパイ小説そのものだったという。 

 FBIの捜査官はチャップマン容疑者と接触したロシア人男性の1人がニューヨーク(New York)の国連(UN)本部に戻っていくところを、何度も目撃している。

 FBIの捜査報告書によると、容疑者と当局者とのメッセージのやり取りにはプライベートな無線通信が用いられており、ニューヨーク市内のカフェでチャップマン容疑者が窓際の席に座りラップトップPCで作業を始めた10分後、ロシア当局者が乗っているとみられるミニバンが、データ通信が可能な距離まで接近したこともあったという。

 また、逮捕の前週には、ロシア領事館職員を装ったFBIのおとり捜査員が、「緊急に手渡す物がある」とチャップマン容疑者に持ちかけ、マンハッタン(Manhattan)のカフェでと同容疑者と接触。別のロシア人諜報員に偽造パスポートを渡してほしいと依頼した。この計画を「次のステップ」に進める準備はできているかと尋ねられたチャップマン容疑者は「もちろんよ」と答えたという。

■離婚歴のある上昇志向の強い起業家?

 米紙ニューヨーク・ポスト(New York Post)やロシアのニュースサイト、lifenews.ruなどによると、チャップマン容疑者は離婚した後、今年の2月にモスクワ(Moscow)からニューヨークに移り住んだという。

 動画投稿サイト「ユーチューブ(YouTube)」に投稿されたチャップマン容疑者のインタビュー画像のなかで、同容疑者は自身を駆け出しのビジネススペシャリストと評し、ニューヨークとモスクワで若い専門職を対象にした人材会社を立ち上げたいと語っている。

 またロンドン(London)で数年間、投資ファンドに勤務した後、モスクワで不動産検索サイト、ニューヨークではIT、メディア、娯楽などに特化したベンチャー企業を立ち上げたなどと書かれている。また冗談めかしてバークレイズ銀行(Barclays Bank)の「奴隷」だったとも語っている。
 
 フェースブックのプロフィールで、チャップマン容疑者は自身の信念を「想像すれば達成できる。夢を持てば、必ずかなう」と書いている。

 このほか、ビジネスSNS、LinkedInにもプロフィールを掲載。ここでは官能的な自身の写真とともに、「革新的なハイテクベンチャーを立ち上げたり、市場に価値をもたらす情熱的なチームを作るのが大好き」と書き込んでいた。

 語学力については、「ロシア語 - ネイティブ、英語 - 流ちょう、ドイツ語 - 日常会話レベル、フランス語 - 初級」などと書かれている。

 28日に出廷した際、チャップマン容疑者の弁護士は、同容疑者は清廉潔白であり、何かの間違いでFBIの捜査網に引っかかってしまっただけだとして、同容疑者の釈放を求めた。無実の根拠として弁護側は、FBIは1990年から諜報活動が行われていたと言っているが、チャップマン容疑者は2005年までは米国に足を踏み入れたこともないと主張した。

 しかし判事は、チャップマン容疑者は事件と無関係な第三者だとはいえないとして、釈放を認めなかった。(c)AFP/Paola Messana