【7月1日 AFP】ペルーのアンデス山脈の一角。海抜4756メートルの山の頂上で、しっくいまみれの作業服で、山肌を黙々としっくいで塗り続ける男たち。なんとも奇妙な光景だが、実はこれは同国の溶解しつつある氷河を回復させる実験的試みなのだ。

 このプロジェクトを主導する男性は、発明家のエドゥアルド・ゴールド(Eduardo Gold)さん。氷河学者ではない。彼が主宰するNGO「ペルーの氷河(Glaciers of Peru)」は、2009年11月に行われた、世界銀行の温暖化対策プロジェクト「100 Ideas to Save the Planet(地球を救う100のアイデア)」コンテストで、入賞した26団体のうちの1つだ。

■70ヘクタールを塗りつぶす壮大な計画

 ゴールドさんは、自らの実験プロジェクトの資金にするための賞金20万ドル(約1800万円)を待っている段階だが、取り組みはすでに開始している。ペルー南部アヤクチョ(Ayacucho)州のアンデス地域にある3つの山の合計70ヘクタールを塗りつぶす計画だ。

 作業員たちは、ペンキ用のはけなどは使わず、水差しを使ってしっくいをまき散らす。これまでに2ヘクタール分の作業を完了したが、今回の現場を塗りつくしてしまうのに必要な広さの10分の1ほどでしかない。

 このプロジェクトは、シンプルな科学原理に基づいている。山の表面を白く塗ってアルベド(太陽の光を反射する割合)を変化させることで、熱の吸収を防ぎ、赤外線を放出させるのだという。

■取り組みに批判も。「試行錯誤のなかで答え見つけたい」

 スティーブン・チュー(Steven Chu)米エネルギー長官は、気候変動対策のために、米国内の住宅には白い屋根を使うよう勧めている。こちらの方が、山を白く塗るよりも実現可能性は高いようだ。

 世銀が2009年に発表した報告書によると、ペルーには、熱帯氷河の70%以上が存在しているが、地球温暖化によって、この30年で22%がすでに溶解してしまったという。

 ペルーのアントニオ・ブラク(Antonio Brack)環境相は前年、ゴールドさんのプロジェクトについて「ナンセンスだ」と批判。世銀の20万ドルは「気候変動を軽減する、より有効的なプロジェクト」に使われる方がよいとの見方を示している。

 しかし、ゴールドさんは、理論を実践することで結果が出せると信じている。「もうどうしようもないと思って、氷河なしで生き残る方法を考えるよりも、試行錯誤のなかで答えを見つけていきたい」

(c)AFP/Bayly Turner