【6月15日 AFP】「良質で安全、公正な食品」の普及を推進する「スローフード(Slow Food)運動」の発祥の地イタリアに、世界で唯一の「スローフード大学」がある。

 珍味ホワイトトリュフの「都」アルバ(Alba)に近いイタリアワイン名産地のひとつ、ピエモンテ(Piedmont)州ランゲ(Langhe)地方の中心にある「食文化科学大学(University of Gastronomic SciencesUNISG)」だ。

■スローフード運動の理念を学際的に学ぶ

 サボイ家(House of Savoy)が所有していた19世紀の建物に構える設立から6年の同大では、スローフードの理念にひかれ世界から集まった300人が学ぶ。ただし意外なことに、教室には鍋やフライパンはいっさい見当たらない。学生たちが目指すのは料理人になることとは異なるからだ。大学案内には「生産から流通、販売促進、広告まで、品質の高い食品づくりの全分野」に精通する人材を育てる、とうたわれている。

 同大は約25年前にスローフード運動を提唱し始めたカルロ・ペトリーニ(Carlo Petrini)氏の理念に基づいて設立された。ワルテル・カンティーノ(Valter Cantino)UNISG学長によると、ペトリーニ氏の理念とは「食文化について、文化的、人間的、感情的側面と同時に、科学的な視点でとらえること。これなくして食の真価は理解できない」というものだ。

 カリキュラムには作物栽培学やワイン製造、生物学、食品の官能分析からイタリア内外の生産地視察、料理史、ワイン史、人類学、マーケティング学までが並ぶ。強調しているのはグローバル化の流れにあらがい、環境に優しい地元の農業を推進することだ。

 学際的なアプローチは多くの学生たちにとって魅力的に映っている。フォワグラとスモークサーモンを作る仏南西部の農家出身だというGuillemette Barthouilさん(21)は、科学分野のフランス語の学士号を取り、次は大学で物理と化学に取り組もうとしたが、普通の大学では「課程が自分のやりたいことと合わなかった」という。食物を作ることよりも「理解することに興味がある」という Barthouilさんは卒業後、先の課程に進み、ゆくゆくは家業を継ぐことも視野に入れている。

 同大の学費は3年間の学部課程は年間1万3500ユーロ(150万円)、1年間の修士課程が年間2万1000ユーロ(約240万円)だ。

■食品産業も地元経済への転換を

 米カリフォルニア(California)州からの留学生レーン・スティールマン(Laine Steelman)さん(26)は17歳のとき、米国の有名シェフ、アリス・ウォータース(Alice Waters)さんの下でアシスタントをしていてスローフード運動に触れて目覚めた。今は、世界132か国で現在10万人の会員がいるスローフード協会の一翼を担っていこうと決心している。

 卒業後の夢は、自分の出身地であるカリフォルニア州よりもスローフードの理念が受け入れられにくいケンタッキー(Kentucky)州で、有機栽培農業を促進する非営利団体(NPO)を設立したいと思っている。「(世界経済の)危機によってすべての状況が変わった。世界中から色々な食品を輸入するよりも、もっと地元経済に力を注げるように食品産業も変わる必要があることにみんな気づくべきだ」(c)AFP/Mathieu Gorse