【6月12日 AFP】香港では、死者でさえインターネットから逃れられない--。香港当局は10日、インターネット上の墓地を無料で提供し、墓参りができるサービスを始めた。

 中国では祖先に敬意を払って最低でも1年に1度は墓参りをするという習慣がある。しかし、香港当局の新サービスを利用すれば、これからは「memorial.gov.hk」にアクセスするだけで墓参りができるようになる。

 同サイトは最大10万人の墓地を収容することができる。利用者は遺族の写真や動画、紹介文をアップロードし、弔辞を記入することも可能だ。

 家族や友人たちは、中国の伝統的な「お供え物」を模した「emoticon(エモーティコン=エモーション・アイコン)」の画像を用いて、果物や花、ろうそくなどを祖先に供えられる。エモーティコンには、ほかにも中国でお供え物として人気の焼き豚やチキン、紙幣などの図像もある。

 また墓地訪問者は、遺族が生前愛好したものの画像、たとえば好物のめん類の画像や新聞の競馬欄などをアップロードすることができる。しかし、煙やにおいをネットで伝える技術がまだ開発されていないことから、お香はまだ供えられないようだ。

■「いつでもどこでも哀悼の念を」

「オンライン墓地」のトップページは、ふわふわした雲の浮かぶ青空が広がる中、タンポポの綿毛が風でゆっくりと飛ぶ様子が描かれている。サイトの説明文には、「愛する人への思い出やメッセージを記帳してください」と記され、「いつでもどこでも遺族への追悼や哀悼の念を示すことができる」ように設置したと述べられている。

 同サイトには、香港住民で、死亡が確認され、市内で埋葬または火葬された人だけが登録することができる。

■お手軽墓参りに意義はあるのか?

 香港道教連合会の責任者、Ng Yuen氏はこの考えに反対だ。同氏は香港の主要英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)に、「墓参りの伝統は少なくとも年に1、2回、家族全員で墓前に集まる労力を払って、追悼や供物をささげるところにある」と述べている。

「朝の歯磨きの前にノートPCを開いて簡単に墓参りができるという考えは、100年後は認められるかもしれないが、今はまだそういうわけにはいかないだろう」(Ng Yuen氏)

 中国では祖先の墓に参り、墓を掃除したりする日として、清明節(Ching Ming Festival)と重陽節(Chung Yeung Festival)の年2回の祝日が設けられている。

■土地不足の代案になるか?

 香港当局がサイト開設にかけた費用は100万香港ドル(約1200万円)。運営費にはさらに年間で80万香港ドル(約940万円)が毎年かかる。

 香港は人口が密集しているため、墓地が見つけにくく価格も高いという現状がある。そのため、市の運営する約10年契約の墓地に埋葬し、その後、火葬などを行った上でより小さな墓地に埋葬し直すという家族が多い。また、近年では土地不足や墓地不足から火葬の人気が高まりをみせている。(c)AFP