【5月13日 AFP】厳しい状況に直面した後に、母親から電話をもらって話すと、抱きしめられるのと同じくらいの癒し効果があるとする研究論文が12日、英学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載された。

 人間関係に関連するこの化学反応を調査した米国の科学者からなる研究チームは、大勢の聴衆の前で発表を行うというストレス環境に7~12歳の少女61人を置き、ストレスホルモンとも呼ばれるコルチゾールと、快適ホルモンといわれるオキシトシンの分泌レベルを調べた。

 少女たちはまず聴衆の前でスピーチをし、次に暗算をしてその答えを口頭で述べさせられた。その後、研究チームは少女たちを3つのグループに分け、1番目のグループには母親から抱きしめられるなど実際の接触による励ましを受けさせ、次のグループには母親と物理的な接触はさせなかったが電話をもらって話をさせ、3つ目のグループには母親とは全く接触させずに差し障りのない映画を75分間、鑑賞させた後に、それぞれのホルモンレベルを測った。

 その結果、予想通り、聴衆の前でストレスにさらされた直後、少女たちの唾液中のコルチゾール分泌は、急激に増えていた。しかし、母親に抱きしめられたグループでは、30分後にコルチゾール分泌が正常に戻っていた。電話で母親と話したグループでは、1時間後にコルチゾール分泌が正常値となった。一方、母親と全く接触しなかったグループでは、1時間後でもコルチゾール分泌は通常より30%以上も多かった。

 快適さの目安となるオキシトシン分泌でも、母親に抱きしめられたグループが最も高く、電話で会話をしたグループがこれに続いた。しかし母親と接触しなかったグループでは、オキシトシン分泌の増加はほとんど見られなかった。

 オキシトシンは、快適さや信頼感を生化学反応的に生み出すホルモンで、哺乳類にしか存在しない。過去の研究では、物理的な接触時にオキシトシンが分泌され、親子や恋人間の信頼関係の醸成に貢献することが確認されていたが、今回の研究では初めて、言葉による接触でもオキシトシンが分泌されることが分かった。

 研究論文は、人間という生物が社会的関係を深める神経内分泌タンパク質の分泌の調節にとって、身体的な触れ合いと同様に愛情ある言葉も重要であると結論付けている。
 
 また研究を主導した米ウィスコンシン大学マディソン校(University of Wisconsin at Madison)のレズリー・セルツァー(Leslie Seltzer)氏は今回の研究結果について、人類の進化の研究に一石を投じるものだと指摘している。(c)AFP