【5月13日 AFP】ヨルダンの首都アンマン(Amman)のスポーツジムで、筋力トレーニングに励むファラ・マルハース(Farah Malhass)さん(26)。彼女は、初のアラブ女性として、ボディービルの国際大会出場を目指している。

 しかし、男性のボディービルダー仲間からは非難され続け、ファラさんは内面的な葛藤(かっとう)を抱えている。 「みなが反対するし、ボディービルで世界的なスターになりたいという私の気持ちを、誰も理解してくれない」

 ヨルダンでは、結婚前に性交渉を持ったと疑われた女性が親族に殺害される、いわゆる「名誉殺人」の例に見られるように、イスラム教の戒律に厳格に従うことを女性に求める男性は多い。腕や背中、太ももにまで入れ墨を施しているファラさんは、こうした強硬派のヨルダン人から、非難の集中砲火を浴びている。

 ファラさんが、体に初めて入れ墨を彫ったのは17歳の時だった。ファラさんにとって、入れ墨は自身のアイデンティティーの記録だという。天使や天使の羽根などの入れ墨に加えて、「凡人であることを止めたとき、ひとかどの人物になれる」「あなたに厳しくあたる人だけが、あなたの苦悩を癒やせる」などの言葉も彫られている。 「もちろん、入れ墨を彫るときは痛いけど、同時に癒やしも感じている。体の痛みが、心の痛みを消し去ってくれるから」(ファラさん)

■家族の反対を押し切って

 ファラさんは、裕福な家庭に生まれたが、両親の離婚後、ビジネスマンの父親からの連絡は途絶え、母親は旅行で家にいないことが多かった。このため、ファラさんは妹とともに、祖父に甘やかされて育った。

 14歳の頃、ファラさんは、自分の写真がスポーツジムの壁一面に張りめぐらされることを夢見るようになった。

 20歳で家を出て独り立ちしたファラさんは、ボディービルダーを目指してトレーニングを始めた。だが、家族からは「なぜ体を醜く変えようとするのか」と猛反対された。

 このため、ファラさんは英ロンドンに留学して美術を学んだが、途中で挫折。ヨルダンに帰国し、2007年に国際移住機関(International Organisation for MigrationIOM)でイラク難民問題を手がけた。だが、ファラさんは昨年、IOMを辞職し、今はトレーニングに専念している。

■「ビキニ姿で歩くなんて!」

 彼女は今、夢をほぼ手中にしかけている。9月にカナダで開かれるアマチュア・ボディービル大会への出場が決まったのだ。

 しかし、ここヨルダンでは、ファラさんの大会出場は批判や冷笑の的となるだけで、励ましは少ない。ファラさんは「大勢が見ている前をビキニ姿で歩くなんて」と、他人からいわれるという。

  ヨルダンのボディービル協会も、女子選手の公認に難色を示しているという。

 ファラさんは、自分の車を売ってカナダ大会出場の費用を工面した。家族に頼らずに、自分自身の力で夢を達成したいのだという。「体調を崩している祖父が、もし、わたしがボディービル大会に出場すると知ったら、二度と回復できなくなるから」。(c)AFP/Randa Habib