【4月30日 AFP】スイス文学を代表するあまりにも有名な児童小説『ハイジ』(Heidi)に対しドイツの学者が、少なくともドイツの物語が下敷きになっていると主張し、「ハイジはスイス生まれ」の伝説が揺らいでいる。

 19世紀スイスの児童文学作家ヨハンナ・スピリ(Johanna Spyri)の作品の登場人物ハイジは長年スイスの象徴とされてきたが、これに待ったをかけたのは、チューリヒ大学(University of Zurich)博士課程に在籍するドイツ人のドイツ文学・文化研究者ペーター・ビュトナー(Peter Buettner)氏だ。同氏はハイジが書かれるよりも前にそっくりの短編小説がドイツにあり、少なくともハイジのヒントになっていると論じている。

■ドイツの短編小説に構造がそっくり

 AFPのインタビューによると、ビュトナー氏は独フランクフルト(Frankfurt)での調査中にほとんど忘れられていた短編小説を偶然発見した。題名は『アデレーデ:アルプス山脈から来た少女(Adelaide, das Maedchen vom Alpengebirge)』で作者はドイツ人のアダム・フォン・カンプ(Adam von Kamp)という作家だった。

「おじいさんに育てられた少女が育った場所を離れ、よその国でつらい思いをしながら育ち、最後には故郷に帰る――すぐにストーリーの構造がまったく同じなことに気づきました」とビュトナー氏は言う。

 ハイジの舞台とされるマイエンフェルト(Maienfeld)はスイス・チューリヒ(Zurich)の南東100キロほどにあるアルプスの雪と緑の大自然を背景にした村で、よく「ハイジドルフ(ハイジの村)」とも呼ばれる。

 ビュトナー氏は「(ハイジの作者)スピリが模倣した、と言うつもりはない」と、盗作だという非難の仕方はしていない。「けれどスピリがドイツの小説を知っていただろうとは思うし、そこから着想を得たのではないかと思う」

■「作者の経験」がベース、スイス側反論

 しかし、スイスの専門家は反論している。子どもと若者向けメディアの研究機関、スイス・インスティチュート・フォー・チルドレンズ・アンド・ユース・メディア(Swiss Institute for Children’s and Youth Media)のレギーネ・シントラー(Regine Schnidler)氏は、スイス紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(Neue Zuercher Zeitung)に対し、ハイジの作者スピリが下敷きとしたのは自分の子ども時代と、チューリヒで過ごしたつらい日々であることはどの証拠を見ても明らかだと断言する。

 また物語の長さもドイツの『アデレーデ』は30ページほどだが、ハイジはその10倍の長編だ。

 指摘したビュトナー氏は「ハイジを真似した作品はごまんとある」ことを強調し、同時に「スイスからハイジを奪う意図はまったくない」と説明している。(c)AFP/Andre Lehmann