【4月11日 AFP】米国のジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)前大統領がキューバ・グアンタナモ(Guantanamo)の収容施設で拘束されているテロ容疑者が無実であることを知りながら、政治的な理由で釈放を拒否していたと、コリン・パウエル(Colin Powell)元米国務長官の側近だった人物が明らかにした。

 この人物はパウエル元国務長官の首席補佐官だったローレンス・ウィルカーソン(Lawrence Wilkerson)氏。2003年3月から2007年12月までグアンタナモに収容されていたスーダン人、アデル・ハッサン・ハマド(Adel Hassan Hamad)氏が、拘束中に米政府の工作員から拷問を受けたとして損害賠償を求めて8日に起こした裁判に陳述書を提出した。その内容は英国紙タイムズ(The Times)が最初に伝えた。

■「ブッシュ大統領も知っていた」

 3月24日付のウィルカーソン氏の陳述書によると、当時のディック・チェイニー(Dick Cheney)副大統領とドナルド・ラムズフェルド(Donald Rumsfeld)国防長官は、2002年の時点でグアンタナモ収容者の大半は無実であることを知っていたが、「収容者の釈放は政治的に不可能だ」と考えていたという。

 ウィルカーソン氏は「パウエル国務長官は、副大統領と国防長官だけでなくブッシュ大統領もグアンタナモに関するすべての意思決定に関与していたと考えていた」ことを、パウエル長官とこの問題について協議した際に知ったと書いている。「グアンタナモ収容者の多くは、本当に敵性戦闘員だったかどうかとは無関係に拘束された。そもそも敵だったかのさえ疑わしい」

 2002年8月下旬までに「グアンタナモに到着した第1陣の収容者742人の多くが拘束手続中に米軍の兵士を一度も見たことはなく、彼らの拘束について意味のある検討がなされたことはなかった」

■「1人5000ドルで米軍に売られた」

 ウィルカーソン氏の陳述は続く。「12~13歳の子どもから92~93歳の老人までがグアンタナモに送られてきた」。1人につき5000ドル(約47万円)で米軍に売られてきたという。多くの場合「(引き渡された)収容者に関する証拠はなく、拘束された理由を知る方法はないのが実情だった」という。

 チェイニー氏とラムズフェルド氏は、「混乱を極めた拘束の実態」が明らかになるのを恐れ、無実の収容者の釈放を望まなかったとウィルカーソン氏は指摘する。

「彼らの考え方は、『テロとの戦い』という大きな目的のなかで、米同時多発テロやその他のテロ行為に本当に関与した少数の者を拘束するためならば、無実の人が何年もグアンタナモで苦しむことになってもそれは正当化されるというものだった…ブッシュ政権のイラク戦争の計画を正当化するより完全で満足できる情報が得られれば(無実の人の拘束も)許容できると見なされていた」

 バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領はグアンタナモ収容所の閉鎖を明言しているが、容疑者を米国内で釈放することには反対があり、無実が証明されたものの母国に帰ることができない人の受け入れを表明する国も少ない。裁判を受けることなく今もグアンタナモで収容されている人は183人にのぼるとみられている。

 ウィルカーソン氏は2005年に米国務省を離れて以来、ブッシュ政権への批判を公言してきた。(c)AFP