【3月26日 AFP】「親の分の朝食を用意してほしい」「学校でツメを切ってほしい」「毎朝子どもを起こしに来てほしい」――。こうした無理難題や理不尽な苦情を保育所や学校に突きつける、いわゆる「モンスターペアレント」が日本の社会問題となっている。

 理不尽な要求に教職員のストレスがかつてないほど高まる中、ついに東京都は今月、教職員6万人以上を対象に、保護者との関わり方についてのハンドブックを配布することにした。問題をエスカレートさせないためには学校側の初期対応が重要で、保護者からの苦情の正当性にかかわらず、「適切な謝罪」をすることで保護者から共感を得られるなどの「コツ」が記されている。

 ハンドブックを監修したクレーム対応アドバイザーの関根眞一(Shinichi Sekine)氏は、過去の事例や対応法が頭に入っていれば、とっさの際に適切に対処できると指摘する。

■「教育が商品化」――わが子しか見ない親たち

「本当に多くて」。ある都内の小学校の教員は、保護者から寄せられた苦情を思い出しながら語った。「ある母親は朝の7時半に電話してきて、2時間くらいずっとクレームを言っている。ある時は、『うちの子はスピーチ苦手なのになんでみんなの前でさせたの』と言っていた」。自分の子どもしか眼中になく、自分の子どもだけを大事に扱ってほしいと望む親が多いと感じるという。

 教育評論家の尾木直樹(Naoki Ogi)氏は「教育が商品化した」と指摘する。2000年代に入って公立学校選択制を導入する自治体が増えた。その結果、学校間で生徒を獲得するための競争が始まり、学校に対して保護者が「客」の立場になったのだという。「百貨店ではお客は神様で、買い手が売り手の絶対的優位に立つ」

 尾木氏は「モンスターペアレント」に関する調査を実施し、全国の教職員や保護者から700件以上の事例を集めた。こうして明らかになった学校に対する要求には、「毎朝家まで子どもを起こしに来てほしい」「翌日の天気を調べて傘が必要かどうか知らせてほしい」「体操着は学校で洗ってほしい」「学校でツメを切ってほしい」などがあった。

 また、卒業アルバムにわが子の写真が少ないから作り直せといった要求や、子どもが石で校舎の窓ガラスを割ったのは子どもの手の届く所に石を置いておいた学校側の責任だと主張する親もいたという。

■精神的ストレスで休む教員数は10年で3倍、死を選ぶケースも

 政府の統計によると、精神的ストレスで学校を休む教員の数はここ10年で3倍に増加し、病欠の63%を占める。また、訴訟に備えて個人で「訴訟費用保険」に入っている教職員は2万6000人と、10年前の1300人から急増した。

 あまりのストレスに耐えられず、死を選ぶケースもあるという。

 2002年、ほかの子どもとの本の取り合いの末、軽いけがをした子どもの両親から4か月にわたり苦情を受け続けた保育所の所長は、「ごめんなさい。許してもらってください。プライドの保てない4か月でした」などとつづった10ページの遺書を残して焼身自殺した。

■苦情は親からの「救難信号」か

 富山市は保育所職員の研修のために「保育所クレーム対応事例集」を作成している。中には「親は忙しいので、子どもの朝食と大人の朝食を用意してほしい」といったものから、「クラス写真で背の高い子の横に並ばされた」とする背の低い子どもの母親の苦情もあった。

 同市の事例集は、こうしたクレームについて、子育てに関して相談相手のいない孤独な親たちからの「救難信号」の可能性があると指摘するとともに、ストレスのはけ口を保育所に求めてくる精神的に余裕のない保護者を救う「チャンス」かもしれないとしている。(c)AFP/Miwa Suzuki