【2月21日 AFP】脳卒中の後遺症で言語障害が残った人たちのリハビリで、単に話すだけの練習をするよりも、同じ言葉を歌に乗せたほうがスムーズに出てくることを20日、米国の第一線の神経学者たちが発表した。

 米国科学振興協会(American Association for the Advancement of ScienceAAAS)の年次総会でまず発表されたビデオでは、脳卒中で言語をつかさどる左脳に損傷を受けた患者に、バースデーソング「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」の歌詞を暗唱してもらおうとしたが患者は思い出せなかった。そこで、介助者が患者の左手を取ってリズムを取りながら、今度は歌ってもらおうとすると、患者は「ハッピー・バースデー・トゥー・ユー」という言葉をはっきりと口にすることができた。

 また、ほかの療法を何年間も試したがまったく効果のなかった患者が、歌に乗せると自分の住所を言えたり、別の患者は歌で「のどが渇いた」と言うことができた。

 左脳に損傷を受けた脳の画像を見ると、こうした歌を使った療法を受けた後では右脳の側で、「機能的・構造的変化」が起こっていた。

 今回発表を行ったのは、米ベス・イスラエル・ディーコネス医療センター(Beth Israel Deaconess Medical Center)と米ハーバード大医学部(Harvard Medical School)のゴットフリード・シュラーグ(Gottfried Schlaug)准教授(神経学)。これまでにも、話せない状態の人が歌を歌うと言葉を口にすることができるという実例は数多くあるが、医療分野で歌を使った療法の認知度を高めることを視野に入れ、ランダム化臨床試験を行ったのは同准教授が初めてだ。

 この療法はミュージック・イントネーション療法(MIT)と呼ばれており、週5日間、1日1時間半のリハビリが行われ、また治療期間は14~16年と長く忍耐が要る。しかし、この療法で回復した言語機能の定着度は高く、概して失われることがない。

 またシュラーグ准教授にこの療法を受けた患者の3分の2が、セラピーで100語程度を「学習」した後に、さらに多くの言葉を自分で「再学習」できているという。

 この療法が患者の脳にどう働きかけるのかについてはまだ不明な点が多いが、同じAAASの会議で神経科学研究所(Neurosciences Institute)のアニルダ・パテル(Aniruddh Patel)氏は、脳の中で言語処理のうち文法の処理をつかさどる部分と、音楽に関連する部分が重なり合っている点を指摘した。

 シュラーグ准教授は、脳の中で普段、言葉を発するときには連携しない部分が、音楽による刺激で一緒に機能し、発話を促すのではないかとみている。「(歌うなど)音を発するという行為は多感覚を動員する活動で、脳内の複数のシステムを同時に動かし、互いに連携させたり回路のように機能させる。脳の中の多くの領域が関わる」

 患者の手を取りリズムを取ることは「脳内の調音システムに対してメトロノームのような役割を果たし、運動活動とむすびついて発話を促すのかもしれない」(c)AFP/Karin Zeitvogel