【2月17日 AFP】(写真追加)1922年11月26日、エジプト・王家の谷(Valley of the Kings)にあるツタンカーメン(Tutankhamun)の墓を小さな穴からのぞき込んだ英国人考古学者ハワード・カーター(Howard Carter)は、黄金のマスクやおびただしい数の財宝に息をのんだ。

 このとき彼は、CTスキャナやゲノミクスについては知るよしもない。貴重な遺物に指一本触れずに3D画像化したり、保存された組織の小片でツタンカーメンの父親そして死因を特定するなど、想像できただろうか?
 
 エジプト考古最高評議会(Egyptian Supreme Council of Antiquities)のザヒ・ハワス(Zahi Hawass)事務局長率いる研究チームが16日公表した研究報告は、遺伝子指紋法を駆使してツタンカーメンの家系を明らかにしたものだった。

 この技術が考古学の世界で表舞台に立ったのは2004年のことだ。フランスでは、フランス革命中に幽閉先のタンプル塔で死亡した少年が当時10歳だったルイ17世(Louis XVII)なのかは長年論争の的となってきたが、遺体の心臓から摘出された遺伝物質を母親マリー・アントワネット(Marie-Antoinette)の髪と比較したところ、ルイ17世のものであることが確認されたのだ。

 2009年には、ドイツの科学者らが、ネアンデルタール人(Neanderthal)のゲノムの3分の2を解析し、ネアンデルタール人は現生人類ホモサピエンスとは交配していなかった可能性を見いだしたとする研究結果を発表した。

 そして前週、グリーンランド西部の永久凍土で見つかった約4000年前の人の髪のDNAを分析していたデンマーク・コペンハーゲン大(University of Copenhagen)の研究チームは、髪の持ち主は男性で茶色の目と茶色い肌を持ち、若くして死亡したことまで突き止めた。現生の民族集団のDNAとの比較から、男性がシベリア出身であることもわかったという。

 同大の研究者は、南米のミイラの髪の毛などを分析することで、今後も数々の謎が解き明かされると話している。

■倫理的な問題を指摘する学者も

 ヒトゲノム解析の時間短縮・低価格化も、明るい材料だ。ヒトゲノムが初めて完全解析されたのは2003年のことだが、13年という年月と約30億ドル(約2700億円)が費やされた。だが米カリフォルニア(California)州のベンチャー・バイオ企業「パシフィック・バイオサイエンス(Pacific Biosciences)」は前年、AFPに対し、2013年までに解析時間15分、費用は1000ドル(約9万円)を切ると宣言している。

 だが、問題点もある。古代のサンプルの多くは不完全だったり処理の段階で汚染されるなどして、DNA解析には適さないかもしれない。

 倫理的な問題を指摘する学者もいる。ツタンカーメンに関する新たな発見が発表された米内科学会誌「米国医師会雑誌(Journal of the American Medical AssociationJAMA)」には、米ミシガン大(University of Michigan)のハワード・マーケル(Howard Markel)氏による次のような意見も掲載されている。

「歴史学者らは、他人の手紙を勝手に読んだり持ち物をとりあげるといった罪を犯している。驚異的な21世紀の医療科学によって歴史のパンドラの箱を開けてしまわないよう、研究が及ぼすあらゆる影響を倫理面から慎重に検討する必要がある」(c)AFP/Richard Ingham