【1月24日 AFP】(写真追加)ハイチの首都ポルトープランス(Port-au-Prince)には、長年にわたりギャングの支配下にある悪名高いスラム「シテ・ソレイユ(Cite Soleil )」がある。

 12日(日本時間13日)にハイチを襲った大地震で壊滅的な被害を受けたポルトープランスに、被災者の救援物資配付の適切な設置場所を探すため調査に派遣された米軍の空挺部隊員たちがその男を見たのは、このシテ・ソレイユだった。

「地元住民は路上で生活している被災者家庭の子供を連れ去りに来たと思って、がれきでその男の頭をたたき割ったんだ」。空挺部隊のために通訳をしているレジー(Reggie)はこう話す。

 シテ・ソレイユの住民たちは血にまみれて路上に横たわる男性の遺体をまったく気にする様子もなく周囲に立っている。遺体にはハエの群れがたかり、その周囲には23日の早朝にその男の命を奪ったがれきが散乱している。

 住民の一部は銃をもっている。その大半はピストルなどの小型拳銃。「でも全部偽物だ」とレジーは話す。

■住民を支配する絶望

 救助活動の専門家、バイロン・ミドルカウフ(Byron Middlekauff)は、地元住民はお互いに争うこともあるが、米兵に対しては攻撃的になることは決してなく、ただ絶望しているのだと話す。「救援物資の配給を受け取りにやって来たある地元の男性は脚を骨折し、すねの骨が皮膚から突き出していた。救援活動のスタッフが医療処置を施そうとしたがそれを断り、ただ水が欲しいと言っただけだった。私は信じられなかった。そのうち彼の脚は腐り落ちるだろう」

 お腹をすかせた大勢の住民たちが、倉庫のような外観の巨大な教会に押し寄せた。ミドルカウフ氏が「この付近にギャングはいるか? どうやってギャングだと見分けるか?」と尋ねると、集まってきた住民は「10~20人のグループでうろついている奴らだ。卑劣な顔つきで、体からマリフアナの臭いを漂わせている」と答えた。

■「ここに政府はない」

 ハイチ政府についてどう考えているかとの問いには、住民たちは口をそろえてこう答えた「ここに政府は存在しない。安全な生活を保障してくれない。警察も守ってくれない。国連(UN)もだ」

 米軍はハイチの地域団体のCommunal Section Councils(CASEC)とCommunal Section Assemblies (ASEC) に連絡を取ろうとしたが、まったく連絡がとれなかった。ようやく探し出したCASECの助手ギロー・ジョスリン(Guilloux Jocelyn)さんは、同団体が市内の各所で起きている混乱状態を招くことなく水やインスタント食品を配付できると断言した。

「この地域にギャングはいないが、小競り合いはしょっちゅう起きている。住民の一部はピストルを持っているが住民に対しては使わない。ピストルを使う場合は別の場所へ行くはずだ」

 シテ・ソレイユの住民は12日の地震発生以来、政府から完全に無視されているとジョスリンさんは話す。「この地域の住民にとって政府は存在していないも同然だ」(c)AFP/Charles Onians