【12月27日 AFP】米国とカナダの国境付近で逃走を続け、警察を振り回している18歳の窃盗犯が、「ベアフット・バンデット(はだしの泥棒)」のあだ名を頂戴し、インターネット上など一部で「英雄」となりつつある。

 現代のビリー・ザ・キッド(Billy the Kid)とも呼ばれ「名をあげている」のは、前科歴が12歳までさかのぼるコルトン・ハリス・ムーア(Colton Harris-Moore)容疑者(18)。逃走時にはだしになることでも知られている。

 米ワシントン(Washington)州シアトル(Seattle)の北にあるカマーノ島(Camano Island)出身のハリス・ムーア容疑者は、窃盗の罪で2007年に逮捕され、シアトル近郊の更正施設に入れられた。

 この施設から翌年、脱走。以降、ハリス・ムーア容疑者の伝説が次々と生まれ、現在ではインターネット上でアイドル扱いされるほどの人気だ。

■足取り残しながらも姿は見せずに神出鬼没

 ハリス・ムーア容疑者は脱走直後、母親の家の近所から盗まれたメルセデスベンツ(Mercedes-Benz)を運転していて警察に追われるが、走行中に車から飛び降り林の中へ逃走。後には略奪品を満載し、大破したメルセデスだけが残された。

 盗品のひとつのデジタルカメラには、容疑者が自信ありげにうっすら笑い、自分で撮影した顔写真が残っていた。

 その後カマーノ島で窃盗事件が続くなか、ハリス・ムーア容疑者は警察の目から完全に身を隠していたが、近所の住民たちは容疑者の仕業だと確信していた。疑いのかかっている事件は数か月のうちに3つの郡で50件を超えた。

 今年9月、ワシントン州とカナダのバンクーバー島(Vancouver Island)との間に浮かぶサンフアン諸島(San Juan Islands)で監視ビデオに、盗難を試みるハリス・ムーア容疑者の姿が記録された。これとは別に、同日発生した、ATMから2500ドルが盗まれた事件では、けがをした犯人が現場に残した血痕はDNA検査でムーア容疑者のものと一致した。

 それでも警察の追跡を手玉に取り、神出鬼没の容疑者に当局は戸惑いを隠せない。

 最初の事件でハリス・ムーア容疑者を取り逃した警官は、林の中で容疑者を確実にとらえていたが、突然「わたしの前から文字通り、蒸発した」という。その瞬間、林の中に高らかに少年の笑い声が響いていたという。

■さらに飛行機泥棒もか

「はだしの泥棒」伝説は10月になって、さらに新たな展開を迎えた。シアトル東郊カスケード山脈(Cascade Mountains)で1機の自家用飛行機が墜落した。これはアイダホ(Idaho)州で盗まれた機体で、その周辺では多くの盗難事件が発生していた。

 墜落機のパイロットは見つからなかった。しかし数日後、近くの住宅から侵入者の通報があった。警察が駆けつけると、強盗と思われるその人物は林のなかに逃げ込み、発砲してきた。突き止めることはできなかったが、盗まれた自家用機が駐機されていた格納庫まで、はだしの足跡が続いていた。

 2008年末にサンフアン諸島で起きた別の飛行機盗難事件など、ハリス・ムーア容疑者の犯行と思われる事件はさらにあった。

 容疑者の母親、パム・ケーラー(Pam Koehler)さんは、実の息子が飛行機を操縦できるようになっていてもなんの不思議もないと言う。「息子は非常に頭がいい。何年か前に受けたIQテストではアインシュタインよりも3ポイント低いだけだった。その飛行機泥棒が息子だったら、誇らしいぐらいよ」

 10月以降、この「泥棒の神童」の足取りを示す報はないが、レオナルド・ディカプリオ(Leonardo DiCaprio)が少年詐欺師を演じた映画『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン(Catch Me If You Can)』の実話版だとして、ハリウッド(Hollywood)にはムーア容疑者の映画を製作したいという映画プロデューサーまで登場した。

 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)「フェースブック(Facebook)」上のファンクラブができるなど、ハリス・ムーア容疑者はカルト的な人気を集めている。シアトルでは容疑者の顔写真にカントリーソング、「ママ・トライド(Momma Tried、ママは頑張ったけど)」のタイトルを刷り込んだメッセージTシャツまで売る男性も現れた。

 しかし、米誌タイム(Time)が「今年最も重要な10代の指名手配犯」にも選んだこの少年、当局にはすこぶる嫌われている。

 容疑者が11歳のときから振り回されてきた地元警察の郡保安官は、「やつはもう立派な大人の重罪犯だ!庶民の英雄になどさせるものか」と厳しく語った。(c)AFP/Morris Malakoff