【12月10日 AFP】アフリカ東部の島しょ国セーシェルは今、ソマリア海賊の被害の増加に悩まされているが、同国で歴史の教師をしているジョン・クルーズウィルキンス(John Cruise-Wilkins)さん(51)は、約300年前に命を落としたたった1人のフランス人海賊に悩まされている。

■岩場に鍵穴?宝探し人生始まる

 岩場をダイナマイトで爆破し、洞くつを探検し、海水をくみ出し――クルーズウィルキンスさんが人生の大半を費やしているこれらの作業は、父親から引き継いだものだ。オリビエ・ルバスール(Olivier Levasseur)という名の海賊が埋めたと考えられる財宝を見つけるのが目的。クルーズウィルキンスさんの父親は、同国最大のマヘ島(Mahe)北部のベルオンブレ(Bel Ombre)の海岸で、引き潮の岩場に鍵穴のような跡を発見したのだった。

 宝は、ベルオンブレのどこかにあると考えられている。「あらゆる種類の機械、高価な装置、レーダー・・・使えるものは使いました。あと必要なのは、昔ながらの方法に回帰することかな。この男(ルバスール)の心の動きを追うことです」

■海賊が処刑直前に撒いた暗号の手紙

 獲物に飛びかかる素早さと鉤鼻(かぎばな)から「ノスリ(La Buse)」の異名で知られたルバスールは、18世紀初頭、他の大勢の海賊たちとともにカリブ海を追われ、インド洋に活路を見いだした。当時のインド洋は無人島が多かったが、欧州の商船が東アジアとの交易路を築いていたのだ。

 ルバスールは、「テイラー(Taylor)」と「イングランド(England)」という2人の仲間とともに船3隻、750人から成る海賊団を結成、インド洋に君臨した。そして1721年、レユニオン沖で「ごちそう」を手に入れる。それは、航行不能になっていたポルトガルの「ビルジェン・デル・カブ(Virgen del Cabo)」号で、インド・ゴア(Goa)の提督が乗っていたが、それ以上に海賊たちを喜ばせたのは大量に積まれた金やダイヤモンドなどだった。

   「海賊たちはそれぞれダイヤモンド42粒と5000ギニーの分け前にあずかり、どんちゃん騒ぎをしたそうです。総督が持っていた金の十字架は、持ち上げるのに3人がかりだったんですよ」

 この逸話は、後に捕らえられたテイラーが語ったものだ。船を失ったルバスールは、セーシャルのマヘ島に隠れ住んだとされる。しかし、貿易船として偽装した船におびき出され、ついに拘束された。

 そして1730年7月、レユニオン島で絞首刑に処される直前、首に縄をかけられた状態で、「わが財宝はこれを読み解いた者に進呈しよう」と叫び、暗号のようなものが書かれた手紙を群衆に撒いたという。

 手紙は、2世紀後の1920年代に再び表舞台に登場した。セーシェルの女性が持ち込んだ手紙を、仏パリ(Paris)の国立図書館が本物だと認めたのだ。

■まるで小説、「ヘラクレス」に関する暗号

 クルーズウィルキンスさんの父親は、元は英国海軍の射撃手で、ケニアで名ハンターの名声をほしいままにした後、セーシェルに移住してトレジャーハンターになった。彼は英国軍で暗号解読に従事した経験があり、ルバスールの手紙の「謎」に挑戦。「アンドロメダ(Andromeda)」の記述を見いだした。

 ルバスールはギリシャ・ラテン学者で、フリーメーソンの組織についても熟知していたとみられている。このことから、クルーズウィルキンスさんは、財宝は「ヘラクレスの12の功業」に基づいた複雑な暗号にしたがって隠されているとにらんでいる。

   「神秘主義」に「三角法」、「換字暗号」、「丸に中黒(circumpunct)」の発見、そして「ソロモンの鎖骨」――すらすらとこれらの言葉を説明してみせるクルーズウィルキンスさんは、まるで大ヒット小説『ダ・ヴィンチ・コード(The Da Vinci Code)』を朗読しているようだ。

 これまでに発見されたのは、金のイヤリング1個に過ぎない。これは、ルバスールが宝の秘密を守るために処刑した下級海賊とみられる頭蓋骨3個のうちの1個で見つかったものだ。

 だが、クルーズウィルキンスさんの情熱は尽きることはない。すでに私財のほとんどを宝探しに費やしてしまったが、地中に眠っている財宝は2億ドル以上とも言われているのだ。これは、ソマリア海賊が2008年に要求した身代金総額の4倍にあたる。(c)AFP/Jean-Marc Mojon