【12月9日 AFP】男性ホルモンの一種であるテストステロンが人間を攻撃的にすることは定説として広く信じられているが、これに異議を唱える研究が、8日の英科学誌「ネイチャー(Nature)」に発表された。研究は変わりに、テストステロンが社会的地位を求める振る舞いを誘発するとしている。

 さらに研究では、テストステロンの効果に関する「定説」が非常に強力で、テストステロンを投与されていなくても、投与されたと信じるだけで攻撃的な振る舞いをすることが示された。

■「テストテロン=攻撃性」の定説

 テストステロンは男性の睾丸(こうがん)で分泌されるステロイドホルモンで、女性の子宮でも少量ながら分泌され、脳の発達や性的行動に影響を与える。

 これまでの研究で、テストステロンはげっ歯類の攻撃性を増大させることが知られている。報告書によれば、定説ではこれが人間にも当てはまり、テストステロンが反社会的、利己的、攻撃的な行動を誘発するとされ、米国ではステロイドによって引き起こされた暴力が正当防衛と認められたケースさえある。

■人間では「社会的地位」重視に作用

 スイスのチューリヒ大学(University of Zurich)と英国のロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校(Royal Holloway College at the University of London)の研究者らは、人間では動物と同じ効果はないとしている。

 研究では、女性被験者120人にテストステロンまたは偽薬(プラシーボ)を与え、お金の取り分を交渉させる実験を行った。

 その結果、テストステロンを与えられた被験者はプラシーボを与えられた被験者より正当かつ公平な申し出をし、断られるリスクを最小限に抑えようとする傾向にあることが分かった。

 これは、テストステロンの投与により社会的地位に対する意識が高まり、テストステロンを与えられた被験者がプラシーボを与えられた被験者より社会的地位を重視したことを示している。

■「定説」とは異なる結果が示すもの

 チューリヒ大学の神経科学者Christoph Eisenegger氏は「テストステロンが人間に攻撃的で利己的な振る舞いのみを引き起こすという説が明確に否定された」とした。また、動物のような単純な社会システムでは、社会的地位への目覚めが攻撃性として表現される可能性もあると指摘した。

 ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校の経済学者マイケル・ネーフ(Michael Naef)氏は「攻撃性を高めるのはテストステロン自体ではなく、テストステロンを取り巻く『定説』のようだ」と指摘。「行為の質や作法について、その原因を生物学的要因に求め、それによって一部の行為を正当化してしまうような社会なのだからこそ、われわれはこの研究結果に注意を払い、姿勢を正すべきだろう」と語った。(c)AFP