【12月8日 AFP】2009年のノーベル文学賞を受賞したルーマニア出身のドイツ人作家ヘルタ・ミュラー(Herta Mueller)氏は7日、ストックホルム(Stockholm)のスウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)で講演し、「ルーマニアの共産党政権への恐怖が執筆に駆り立てた」などと話した。

 10日のノーベル賞受賞式を前に講演を行ったミュラー氏は、黒いドレス姿で演台に立ち、「独裁政権における死への恐怖が、生への渇望、言葉への渇望を生んだ。あのころのわたしの状況は、『言葉の嵐』以外の言葉では言い表せない」と話した。

「独裁政権時代は、嘘がつけない性格なもので、とにかくよくしゃべっていました。そして、こうしたおしゃべりはたいてい、悲惨な結果を生み出していました。でも執筆は、沈黙の中で始まったんです。語れる以上のことと折り合いをつけなければならなかった場所で、です。当時起こっていたことは、もはやスピーチでは言い表すことができませんでした」 

 ミュラー氏はまた、「書くことは、人を信用させるというよりは、偽りをあからさまにしていく行為だ」と話した。

 その後の人生を変えるきっかけになったという、セクリタテア(ルーマニアの秘密警察)でのエピソードも紹介した。「尋問官が『書け』と怒鳴ったので、わたしは立ったまま、言われたとおりに氏名と生年月日と住所を書きました。すると…『コラボレツ(協力)』という恐ろしい語を使って…『協力者』であるということを誰にも、どんなに親しい人物にも言ってはならないと言われました。その瞬間、書くことをやめたんです」(c)AFP