【11月20日 AFP】舞台はバルカン半島の裏社会、国家機密がゲイの恋人とのピロートークで漏えい――21世紀のスパイ小説に必要な要素がすべて盛り込まれたような事件の裁判が、ドイツ南部ミュンヘン(Munich)の裁判所で18日、始まった。

■コソボでスパイ網の組織化に従事

 事件の詳細は公式には発表されていないが、独メディアの報道によると、事件の発端は元独軍兵士の「アントン・K(Anton K)」が2005年、コソボ(Kosovo)に配属されたことにさかのぼる。表向きは独外務省の職員だった「K」の実際の任務は、ドイツの情報機関「連邦情報局(BundesnachrichtendienstBND)」のスパイ網を築き上げることだったとされる。

   「K」は任務遂行にあたり、現地でマケドニア人男性「ムラト・A(Murat A.)」(29)を通訳・翻訳者として雇った。 ドイツ育ちだという「A」の採用は、BNDが過去の経歴を確認した上で承認したものだった。2年間の雇用の後、07年に「K」の任期はさらに2年間延長となった。

■雇った通訳と恋仲に

 ところが「K」は、「A」との間に個人的な関係が生じたことを、上司に報告していなかった。2人は恋人同士となり、同棲を始めていたのだ。

 2人の関係は08年、「K」が生命保険の受取人名義をドイツに残してきた妻から「A」に変更したことに妻が気づき、BNDに報告したことから発覚した。BNDは検察当局に2人を告発。偽の理由をつけて2人をドイツに召還し、「K」を駅で、「A」はホテルで、私服警官によって逮捕した。

 メディア報道によると、2人は逮捕の翌日に証拠不十分で釈放されたが、今年3月~4月に再び40日間にわたって身柄を拘束されたという。2人は現在、シュツットガルト(Stuttgart)近郊で同居中という。

■寝室のベッドの上で情報漏えい?

 独連邦検察局が8月に発表した声明によると、「K」には機密情報を「A」に漏えいした疑いがかけられている。検察は、「A」がこれらの情報をマケドニア国内の犯罪組織、あるいは海外の情報機関に売り渡していたとみている。

 独週刊誌シュピーゲル(Spiegel)は、漏えいした機密情報には英国の情報員から得た情報などが含まれ、「K」は「寝室で」これらの情報を「A」に漏らしたり、自分のパソコンを「A」に自由に使わせたりしていたと報じている。

 一方、弁護側は「2人は、BND内部にはびこる同性愛差別の犠牲になっただけ」と主張している。(c)AFP