【10月21日 AFP】米コロラド(Colorado)州で15日、6歳の少年が気球に乗って飛ばされたとの通報を受けた各テレビ局は、急きょ番組を切り替え、この様子を数時間にわたり生中継した。しかしそれから48時間もしないうちに、両親によるでっち上げだったことが判明。ニュースに求められる正確さが、1日24時間の報道という飽くなき要求に応えるために無視されてしまったと専門家は口をそろえる。

 騒動をでっち上げた少年の父親、リチャード・ヒーニ(Richard Heene)さんは変わった言動で知られていた。自分は宇宙人の子孫で、レストランのトイレで宇宙人と遭遇したことがあると主張している人物になぜやすやすとだまされてしまったのか、多くのメディアが自問している。

 米フロリダ(Florida)州にあるジャーナリストの非営利教育機関、米ポインター・インスティチュート(Poynter Institute)のケニー・アービー(Kenny Irby)氏は次のように指摘する。「少なくとも『黄信号』を灯すだけの複数のサインがあった。リアリティーテレビへの家族の出演、子どもたちの首尾一貫しない発言などに、ジャーナリストはもっと疑問を感じ、もっと思慮深く反応すべきだった」

 アービー氏はまた、多くのケーブルテレビ局が番組を中断してまでこのニュースを中継したことは、メディアが正確さよりもスピードに一層の重点を置くようになっていることを反映しているとも話した。

 シラキュース大学(Syracuse University)のロバート・トンプソン(Robert Thompson)教授(テレビ・大衆文化学)は「この騒動の教訓もいずれ忘れられるだろう」と厳しい意見だ。

「気球少年のニュースはメディアにとっての『モーニングコール』だったが、われわれ一人ひとりがいずれ見過ごすようになる『モーニングコール』でもある。このようなことがあさってまた起きれば、全く同じ方法で報道され、視聴者も全く同じ方法で目にすることになるだろう」

「例えば、テレビネットワークが、操縦中のパイロットから次のような叫びをキャッチしたとしよう。『今、妻が隣で3つ子を出産中だ。ところで、着陸装置が作動しないんだ』。その1秒後には、われわれはマスコミのヘリコプターが中継したその機内の様子をテレビで見ることになるだろう。それが事実なのかうそなのかの検証を待てず、まず報道して、検証はその後という具合だ」

「その背景には2つの技術革新がある。あらゆる場所からの放送を可能にした衛星中継車と、ニュースを伝える無数のプラットフォームだ」

 ノートルダム大学(University of Notre Dame)のテッド・マンデル(Ted Mandell)教授は、常にニュースを流し続けることへの要求が「ヒステリカル・ジャーナリズム」の風土を生み出していると指摘する。

「インターネットやCNNがなかったころは夕方6時のニュースを待つ余裕があった。今の報道は瞬時の世界で、検証も思慮深さもない。ストーリーを手に入れ、放送し、視聴者を集める。それだけに終始することが、ヒステリカルな報道の温床となっている。そこにはもはや視点というものなど存在しない」(c)AFP/Rob Woollard