【10月12日 AFP】自由市場原理が崩壊した場合の経済協調を探求した米国のエリノア・オストロム(Elinor Ostrom)教授とオリバー・ウィリアムソン(Oliver Williamson)教授が、2009年のノーベル経済学賞を受賞した。

 フランスのある大学教授は、昨年の経済崩壊を考慮すると、2人の受賞は「タイムリー」だと話す。伝統的な市場理論が、昨今の金融・経済の混乱には当てはまらなかったために信頼を失ったと考えられているためだ。

 ウィリアムソン教授は、「欠陥を生み出す企業の構造」に焦点を当てた研究で受賞した。ロンドン(London)のシティ大学(City University)のクラウス・ザウナー(Klaus Zauner)教授(経済学)によると、ウィリアムソン氏はその取引費用理論で経済学に「革命」をもたらし、その理論は今や世界中のビジネススクールで教えられているという。

 取引費用理論によると、企業は市場主導のオプションの方がコスト安に見える場合でも、スポット市場での取引とは異なり、長期的な経済協力関係によるコスト節約の方に重きを置くと考えられている。

■経済を良くするのは市場ではなく「人」

 一方、オストロム教授は、共有財産をめぐる争いで最良の解決をもたらすものは市場の力ではなく人間であると結論付ける研究を行った。  
 
 フランスのエコノミスト、マルタン・アントナ(Martine Antona)氏によると、誰にも属していない共有財産を集団で管理すべきと唱えた学者は、オストロム教授が初めて。そして、「炭素も生物多様性も人類の共有財産」だと世界中の人々が唱えるようになった昨今では、こうした考えはますます重みを持ってきているという。

 オストロム教授の理論は、例えばこういうことだ。世界中で乱獲されているマグロのような共有資源は、各当事者が自己の利益しか考えない場合、過度に使用してしまうことになる。その解決策は、当事者間で競争するのではなく、協力することだ。

 先のザウナー教授は次のように指摘する。「市場によらない非公式な協力関係がすべての人々にとってより良い解決策になる場合もあることを、オストロム教授は示してくれている」

 別の専門家は、この「非公式な協力関係」は、市場の失敗を、エコノミストたちの予想以上に、そして政府の介入を必要としないほどに、修正できる可能性を秘めていると語る。

 貧困地域をも調査対象にした同氏の研究は、ウィリアムソン教授の研究同様に、持続的な協力関係が長期的な利益をもたらすことを実証するものだ。

 過去2年間の金融危機、それに続く不況では、各プレイヤーがそれぞれ需要と供給にもとづいて合理的な判断を下している自由市場の信頼性が危機にひんしていく様子がつぶさに観察されたばかりだ。(c)AFP/Roland Lloyd Parry