【10月10日 AFP】エジプトではイスラム教徒の女性たちはたいてい、髪の毛を隠すヒジャブを身につけている。ところが最近、首都カイロ(Cairo)では、顔をすっぽり覆う「ニカブ」まで付けている女性の姿が目立つようになってきた。黒い手袋をはめている女性もいる。原理主義の台頭を避けたい政府にとっては心配の種だ。

 この問題は今週、イスラム教スンニ派の最高学府であるアズハル大学(Al-Azhar University)のムハンマド・タンタウィ(Mohammed Tantawi)総長が傘下の高校を訪問した際、ある女子生徒にニカブをとるように言ったと報じられたことがきっかけで大きな注目を集めるようになった。エジプト最高の宗教的権威であるタンタウィ総長は、アズハル大学でのニカブの着用を禁止する方針を示したともされる。

 宗教財産省は、ニカブの着用は非イスラム的と説明するパンフレットを配布している。一方で保健省は、女性の医師や看護師のニカブ着用を禁止したいと考えている。

■ニカブを着用した学生に対する教育現場の反応

 国立のカイロ大学(Cairo University)の寮でのニカブ着用も禁止されたとの報道があるが、大学側はこれを否定している。

 あるガードマンは、教育省からの命令であることをほのめかしたが、同省スポークスマンは「禁止令のようなものは一切出していない」と否定。「去年、ニカブを着用した数人の男が寮に侵入して逮捕された事件があったので、ニカブを着けた学生は身元確認のためにニカブをとってほしいということだ」と付け加えた。

 同国の人権監視団体「Egyptian Initiative for Personal Rights」のホッサム・バーガト(Hossam Bahgat)氏は、「反体制的思想を持つ学生、特に(非合法ながら事実上の最大野党となっている)イスラム原理主義組織のムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)に近い学生は、寮に住むことが禁じられる傾向にある」と話す。もっとも、選挙を通じてイスラム体制の実現を目指しているムスリム同胞団は、ニカブとはあまり関係がない。

 ニカブを支持する人々は、「これを着用した女性は神により近づくことができる」、「自分の服を選ぶ権利は認められるべき」と主張している。

■ニカブとサラフィズム

 ニカブは、中東では、一般的にサラフィズムの信仰と結びついている。サラフィズムとは主にサウジアラビアで信奉されている超保守的な信仰上の考え方。アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者のイデオロギーとの共通点も多いが、現実には信者の大半が政治とは距離をおき、初期イスラム教の実践と信仰を遵守するピューリタン的信念を流布することに重点を置いている。

 専門家らは、ニカブを着用する傾向は、政府のみならずアズハル大学にとっても懸念材料だと指摘する。

 エジプト政府は1981年のアンワル・サダト(Anwar Sadat)大統領の暗殺以来、原理主義勢力との大規模な武力衝突をたびたび繰り返している。そして、サラフィズム信者の多くは、アズハル大学が教えている神学の内容を軽べつしている。(c)AFP/Samer al-Atrush