【10月6日 AFP】5日に発表された2009年のノーベル医学生理学賞(Nobel Prize for Medicine)は、米カリフォルニア大(University of California)のエリザベス・ブラックバーン(Elizabeth Blackburn)教授、ジョンズ・ホプキンズ大(Johns Hopkins University)のキャロル・グレイダー(Carol W. Greider)教授、ハーバード大(Harvard University)のジャック・ゾスタック(Jack W. Szostak)教授の3氏が受賞したが、受賞理由は「寿命のカギを握るテロメアとテロメラーゼ酵素の仕組みの発見」だった。

 テロメアは染色体の末端に付いているキャップのようなもので、らせん状になっている大切な遺伝情報を保護する役目を担っている。

 ブラックバーン教授は、テロメアを「靴ひもの先端」に例える。先端のビニール製の止め具がなくなると、ひもの糸がばらばらにほどけてしまうという意味だ。

■老化との関連性

   「TTAGGG」の塩基配列の繰り返しから成るテロメアの長さ、ならびにテロメラーゼ酵素による修復作業は、目には見えないが老化プロセスにおいては重要な役割を果たしている。

 テロメアは、細胞が分裂するたびに短くなっていく。テロメラーゼはテロメアを部分的に再建するが、テロメアが「ヘイフリック限界(Hayflick limit)」として知られる一定の限界を超えて短くなると、細胞は死んでしまう。

 テロメラーゼの量の少なさは、早期の細胞死と早期老化に関連している。テロメラーゼの異常は、極めてまれではあるが、慢性貧血など症状が重い病気の原因となる。

 テロメラーゼが初めて発見された当初は、この酵素を体内に多くとり入れることで長寿命化が可能との憶測が盛んだったが、今は慎重なムードが漂っている。テロメラーゼの濃度が高いとかえって害を及ぼす可能性があることがわかったためだ。

 例えばがんの場合、活性化されたテロメラーゼはがん細胞を際限なく分裂させ、がんの特徴である「細胞の不死」を引き起こしてしまう。

■有望ながん治療薬のきっかけに

 だが、この発見は、テロメラーゼを抑制したり、テロメラーゼを発現させる細胞を攻撃するがん治療薬の開発につながった。約10年間の研究を経て、初めての臨床試験が現在欧米で行われている。

 テロメラーゼは、人間のほぼすべてのがん性腫瘍(しゅよう)で活性化されるが、正常な細胞ではたいてい不活性であるため、化学療法においては理想的なターゲットだという。つまり、テロメラーゼを不活性化する薬は、すべてのがんに働くうえに副作用がほとんどない可能性があるという。

■テロメアの短さと病気のかかりやすさ

 一方、テロメアは病気へのかかりやすさに関する生体指標だと考えられるようになっている。

 2007年に英国で行われた中高年の男女1500人を対象にした研究では、テロメアが最も短いグループが5年以内に心臓病を発症する確率は、テロメアが最も長いグループの2倍であるという結果が出ている。

 その理由は明らかではないが、短くなったテロメアが動脈壁の損傷部分の細胞の修復を妨げていることが考えられる。

 ブラックバーン教授は2004年、精神的負担が体に影響を及ぼすという、いわゆる「心身相関」を調べるための実験を行った。その結果、母親が子どもを看病する時間が長いほど、母親のテロメアは短く、テロメラーゼのレベルは低く、テロメアやDNAが破壊される酸化的ストレスは高いことがわかった。(c)AFP/Richard Ingham