【9月24日 AFP】誤りを認め、謝罪するのは誰にとっても簡単なことではない。医療過誤(ミス)によって患者の命を奪ってしまった医師にとっては、医師生命が断たれる可能性のある訴訟につながるかもしれない。

 ドウ(Doug)さんの兄ジム(Jim)さんは1998年、致命的な診察過誤によって帰らぬ人となった。

「まず患者やその家族と距離を置いて関係を悪化させ、口を閉ざして訴訟の機会を減らそうとすることは、医療業界の文化だ」とドウさんはAFPに語る。

 ジムさんは心臓発作の典型的な症状である胸、肩、首、腹部の痛みを訴えて受診した。当時39歳で大柄で丈夫そうに見えたジムさんを、病院側は即座に何らかの腹部の障害と診断した。翌日になって激しい痛みを訴えたため再度受診し、レントゲン検査を行った。ここで、病院側は数か月前に同じ検査を受けたジムさんの父親のレントゲン写真をジムさんのものと取り違えるという致命的なミスを犯した。父親の写真は動脈の閉塞を示していなかったため、ジムさんは心臓の細菌感染症と診断され、抗生物質を処方された。2日後、病院側は誤診に気づき緊急手術を行ったが、ジムさんは助からなかった。ジムさんの4つの主要な動脈には血栓があった。

 ジムさんの死自体、家族にとって受け入れがたい出来事だったが、病院側の隠ぺいにより訴訟を起こすしかなく、それが悲しみを増幅させた。最終的には何とか事実が判明し、2000年に和解した。

「両親は2年間、長男の死を繰り返し思い出さなければならなかった」とドウさんは語る。

■「謝罪」がもたらすさまざまな効果

 ドウさんは5年後、医師が過誤を明らかにし、謝罪し、補償を提供することを促すプロジェクト「The Sorry Works! Coalition」を立ち上げた。このプロジェクトは、医療過誤の解決は法的問題ではなく、単純な顧客サービスだと主張する。

 複数の研究によると、米国では毎年、回避できる医療過誤1500万件が発生し、その結果10万人以上が死亡していると推計されている。

 米イリノイ大学医学部(University of Illinois Medical Center)の安全管理責任者ティム・マクドナルド(Tim McDonald)氏は、このような動きの先駆者だ。同医学部の医師たちは患者の家族とコミュニケーションを密にとり、問題があればどのような過誤に対しても調査を行い、必要であれば謝罪する。このプログラムを開始した2006年以降、「(誤りを)認める文化」が浸透し、血栓を回避するより良いシステムが開発されるなどの成果が現れたという。

 米国の訴訟弁護士団体American Association for Justiceのスーザン・スタインマン(Susan Steinman)氏も「Sorry Worksは多くのメリットがあり、複数の大規模大学病院でうまく機能している」と述べ、訴訟費用を節約できるだけでなく、医療過誤を減らすことにも役立っているとその意義に賛同する。

 ドウさんは「患者や家族はどんなにひどい経験をしたとしても、堂々と誠実に『間違いを犯しました。どのように正すことができるか話し合いましょう』とさえ言ってくれれば、生きていくことができる」「これは単純に人を思いやり成果を上げることだ」と語った。(c)AFP/Andrew Gully