【8月12日 AFP】ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)米国務長官は11日、コンゴ民主共和国(旧ザイール)東部のゴマ(Goma)を日帰りで訪れ、街にあふれるホームレス、性暴力を受けた女性たちなど、戦争に引き裂かれた国の悲惨さを目の当たりにした。クリントン長官からは、この現状を打破するための「魔法のつえ」はないとの感想ももれた。

 ルワンダとの国境に近いゴマは、今年1月にコンゴ軍がフツ人(Hutu)の民兵組織の掃討作戦を開始して以来、女性への性暴力が多発傾向にある。

 クリントン長官は、性暴力の被害者が入院している病院を訪問し、2人から話を聞いた。うち1人は妊娠8か月のときに被害に遭い、おなかを裂かれて胎児が引き出されたという経験を持つ。

 長官は、報道陣に次のような感想を述べた。「この目で見たことにただただ圧倒されている。苦痛と絶望はいかばかりか、それをここで表現するのは難しい」

■穴ぼこだらけのでこぼこ道を行きつ戻りつ

 今回のアフリカ歴訪で「女性の権利」を最優先課題に据えているクリントン長官は、安全面が懸念されていたにもかかわらずゴマ訪問を敢行した。彼女を現地に運んだのは「エアフォースツー(Air Force Two)」ではなく国連の小型機。ゴマの心細い滑走路に降り立ったあとは車に乗り換え、車列は穴だらけのでこぼこ道を走ってキブ湖(Lake Kivu)畔でのジョゼフ・カビラ(Joseph Kabila)大統領との会談場へ。

 その後、病院や避難民キャンプに向かう車列を、ほこりっぽい沿道に数千人が出て好奇の目で追った。一部の女性からは、声援がおくられた。

 性暴力に関する公開討論会では、「ゴマに集結した国連とNGOの職員は、暴力に終止符を打てないばかりか、物価高騰を招いているだけ」「セレブも来るけど、最終的には名刺を置いていくだけだ」との苦情が寄せられた。これについてクリントン長官は、これまでのアフリカ訪問国で自分とバラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が繰り返してきたメッセージ――自分たちの運命を司っているのは結局自分たちである――を繰り返した。

「約束の安売りはしたくありません。名刺を渡すためだけにここを訪れたわけではないけれど、わたしが『魔法のつえ』を持っているわけではないことも、事実です」

「あなたがたに約束できるのは、米政府は一生懸命働くということ、あなたがたの政府とともに働くということ、あなたがたが代表を務めている(人権)団体とともに働くということです。わたしは、コンゴの人々には勇気があることを知っている」

■避難民キャンプにて

 約2万人の避難民が暮らすムグンガ(Mugunga)国内避難民キャンプでは、32歳の母親に面会した。この母親は、性暴力がこわくて故郷に戻れないのだという。その代わりキャンプの女性たちを集め、生計を立てるためのバスケット作りを行うグループを立ち上げた。

 クリントン長官は明らかに感銘を受けた様子で、「わたしはカビラ大統領との会談から戻ったばかりなの。あなたのような女性が家に帰れるよう、暴力をなくすための話し合いをしたわ」と語りかけた。(c)AFP/Shaun Tandon