【8月12日 AFP】史上初の人間の全遺伝情報(ヒトゲノム)解析には、第一線の科学者部隊と費用数十億ドルを要したが今、米国では同じ作業を科学者3人だけで、そして中価格帯のBMW1台程度の費用でやり遂げようとしているチームがいる。

「わたしたちの方法ならば、研究室1室と機械1台で、5万ドル(約480万円)という”手ごろ”な費用でできる」――この研究を設計し、自分のDNAを提供した米スタンフォード大学(Stanford University)のステファン・クエーク(Stephen Quake)教授が、10日の英科学誌「ネイチャー・バイオテクノロジー(Nature Biotechnology)」で発表した画期的なプロジェクトが、ヒトゲノム解析における最新の水準になりつつある。

 世紀が変わるころ、人体の全細胞がもつ30億組の塩基の対による「生命の設計図」、つまりDNAの全配列解析を目指した「ヒトゲノム計画」は、原爆開発の「マンハッタン計画」と比される米バイオテクノロジー界の巨大国家プロジェクトだった。2003年に完了した際には、人類最大の科学的功績のひとつとも称えられた。

 以降、ヒトゲノム解析は数年ごとに「けた違いで安く、早く」できるようになったとある研究者は振り返る。2007年には米バイオ企業「454ライフサイエンス(454 Life Sciences)」が、期間3か月弱、費用100万ドル(約9600万円)以下で解析するまでになった。

 同年9月、一匹狼の科学者クレイグ・ベンター(Craig Venter)博士は、解読した自らの全ゲノム情報を公開。世界で初めて、特定の個人のヒトゲノムが完全に公表されたが、費用は明かされなかった。

 2008年、解析費用は25万ドル(約2400万円)以下にまで下がったが、それでもまだ数十人の科学者チームを必要とした。

■5年以内に10万円以下を約束する企業も

 これまでにゲノムが解析された個人はわずか十人程度だが、プロセス自体は一般的になり、数年以内には費用も現在の十分の一を下回る可能性がある。米カリフォルニア(California)州メンロパーク(Menlo Park)のベンチャー・バイオ企業「パシフィック・バイオサイエンス(Pacific Biosciences)」は、2013年までに解析時間15分、費用は1000ドル(約9万6000円)を切ると宣言している。

 ヒトゲノムの完全解析を、個人向けゲノム情報解析サービス会社「23アンド・ミー(23andMe)」や「デコード・ミー(deCODEme)」といった企業の、概要しか提供しない解析と混同してはならない。
 
 クエーク教授らが使用したのは、冷蔵庫サイズのゲノム解析機で、30億を超えるヒトの塩基対を数百万個の鎖に切断した。ひとつひとつの鎖を解析機が読み取り、その強力なコンピューターでそれらのゲノムを再度、一体に組み立て直した。「外箱のイラストを見ながら、巨大なジグソーパズルを組み立てているようなものだ」(クエーク教授)

 提供されたクエーク教授のゲノム情報の解析は95%が完了しており、結果は米国立生物工学情報センター(US National Center for Biotechnology Information)が保存しているという。(c)AFP/Marlowe Hood