【7月18日 AFP】(一部訂正)ライオン、キリン、トラ、ウサギ、クマ、サイ、フクロウなどの動物は、白内障で視力を失うことがある。これらの動物たちを失明から救っているのは、ドイツ東部の小さな会社がつくるカスタムメードの「コンタクトレンズ」だ。

 この会社が作っているのは完全に視力を失った動物の眼球に埋め込むアクリル製の「眼内レンズ」というもので、ネコからサイまで、大きさや種を問わず、多様な動物に適用できる。

 手術は難しく、獣医には特別な訓練が必要だ。しかし、この技術がドイツの化学者で女性実業家のクリスティーネ・クライナー(Christine Kreiner)氏(64)が立ち上げた小さな会社「S & V Technologies」をこの分野で世界市場をけん引するまでに飛躍させた。

「人間の場合と異なり、動物にとって白内障は失明を意味する」と同社獣医部門の責任者インゲボルク・フロムベルク(Ingeborg Fromberg)氏は語る。

 2008年の創業以来、米国、オーストラリア、ルーマニアなど世界各地の動物園から要請を受け、視力低下で芸ができなくなってしまったアシカ、全盲のカンガルーやライオンなどを救ってきた。

 動物が視力を失えば芸を仕込むために費やした投資が無駄になることもある。手術や術後のケアにかかる費用は数千ユーロ(数十万円)と高額だが、視力を失った動物やそのオーナーにとってはそれだけの価値があることが多い。

■生殖活動にも影響

 視力を失うと、生殖活動にも影響をもたらすことがある。例えば、世界自然保護基金(World Wide Fund for NatureWWF)は中国の保護区に暮らすヒグマにレンズ移植手術を受けさせている。

 ミュンヘン(Munich)出身のクライナー氏は、ベルリン(Berlin)の北にある静かな川沿いの街、ヘニングスドルフ(Hennigsdorf)に会社を設立。ここで開業する企業に対しては、欧州連合(EU)とドイツ政府が初期費用の3分の1を出してくれるのだ。ヘニングスドルフには20年前のベルリンの壁崩壊以来、ハイテク企業の進出が進んでいる。

 クライナー氏はこれまでに5つの会社を設立した。東西ドイツ統合により、新しいことをやっていこうという酔いしれるような雰囲気があった1990年代のこの地域に魅力を感じたのだという。

 S & Vの2008年の売上高は約250万ユーロ(約3億3200万円)に上った。クライナー氏は今年、動物向け眼内レンズのほか、好調なしわ防止化粧品(こちらは人間向け)などで30%以上の成長を見込んでいる。従業員は32人で、今年さらに5人が加わるという。

 同氏は「この分野では、大々的なマーケティングで中小企業をつぶせるような世界的企業はない」と語り、カナダ、フランス、米国にある数少ない同社の競合企業はいずれもS & Vより規模が小さいと付け加えた。

 会社の成長を妨げている主な要因はレンズ移植を行う技術をもった獣医が少ないことだという。これを解決するため、週末にはオーストラリア、ブラジル、日本、台湾、米国など世界中から集まった獣医に訓練の場を提供している。(c)AFP