【5月29日 AFP】ある日突然100万人のお客さんがぱったり来なくなったら、どうします?

 マット・ムレンウェグ(Matt Mullenweg)さんは、肩をすくめるだけだ。

 この25歳の米国人の若者は、いまや世界1500万人あまりのブロガーに利用されているブログソフトウェア、「ワードプレス(Wordpress)」の創始者だ。
 
 ワードプレスは、誰もが開発に携われるオープンソースのソフトで、簡単にウェブサイトやブログを作ることができる。そのシンプルさから、リリースしてから6年で世界でもっとも人気のブログプラットフォームとなった。

■「万里のファイアーウォール」に阻まれる

 しかし2006年、ソフトがますます発達し続けるなか、中国政府は突如サイトへのアクセスをブロックした。一晩にして100万人の読者、全体の4分の1に相当するトラフィックが消えたという。

 講演会のために香港を訪問中のマットさんは、AFP記者に対し、「もっといい話ならよかったんだけど、ある日突然みんな消えてしまったというのが本当のところ。どうすればいいかさっぱり分からなかった」と語る。

 その後マットさんは、中国からのアクセス遮断を解除するには、中国政府が指定する言葉やトピックを規制し、ユーザーの情報を政府に渡すことが必要だと知ったという。

「会社のDNAと反すると思うんだ。そんな会社は、毎朝起きて頑張ろうって思えない」と、着古したトレーナーとジーパンを身に着けたマットさんは言う。

 結局、サイトはそれ以来中国からアクセスできないままだ。

 一方で、中国政府はサイトがブロックされていることを否定しているという。中国の検閲システムは「万里の長城(Great Wall)」になぞらえ「万里のファイアウォール(Great Firewall of China)」として知られている。

 中国政府に屈さなかったマットさんの決断は、世界最大のオンラインマーケットを手に入れようと中国の厳しいインターネット規制に合意したほかの企業とは対照的だ。

 例えば米インターネット大手のヤフー(Yahoo)は、2005年に中国人ジャーナリスト、師濤(Shi Tao)氏の個人情報を中国当局に提供していたとして、大きな非難を受けた。師氏は同年、国家機密漏えいの罪で服役することとなった。

 マットさんのサイトでは、ブログ作成は無料だが、その他の機能や広告などで収入を得ている。

 会社の従業員は100人足らずで、上場していないため収支を発表する必要はない。マットさんは、2007年に2億ドルの企業買収オファーをけったとも報じられているが、お金の話はあまりしたくはないようだ。

「うまくいっているよ。どうやってもうけてるのって聞かれるのは好きだね。だって、つまりうちのサイトが広告だらけに見えないってことだから」(c)AFP/Guy Newey