【5月15日 AFP】(一部更新、一部訂正)1989年の天安門事件で失脚した中国共産党の趙紫陽(Zhao Ziyang)元総書記(2005年死去)が同事件などについて軟禁中に語った発言がひそかに録音され、その内容をまとめた本『Prisoner of the State(国家の捕囚)』が出版された。6月4日に天安門事件から20周年を迎えるのを前に出版されたこの本が、中国政府を当惑させるのはほぼ間違いない。

 趙氏は天安門事件で学生側を擁護したために失脚し、15年間軟禁状態に置かれた。ハーバード・ビジネス・レビュー(Harvard Business Review)の編集者であるアディ・イグナティアス(Adi Ignatius)氏が書いた序文によると、この間、ひそかにテープに発言を吹き込み、これらを友人に渡したという。

 米国のサイモン&シャスター(Simon and Schuster社)から出版されたこの本で、趙氏は天安門事件に関する自分の気持ちを次のように語っている。「(事件前日の)6月3日の夜、家族と自宅にいたとき、銃声が鳴り響くのを聞き、世界を震かんさせる悲劇は避けられないと思った」

 また、1989年5月の当時の最高権力者、鄧小平(Deng Xiaoping、共産党中央軍事委員会主席)らとの会議に関する、苦悩に満ちた回想もある。この会議では、学生の反政府抗議活動に対し軍隊を投入して戒厳令を敷くことが決定され、これが天安門事件の引き金となった。趙氏は、鄧氏の決定を聞いた瞬間「非常に動転した」と語っている。「わたしは自分に言い聞かせた。いかなる場合でも、学生たちを弾圧する軍隊を動かすような総書記にはならないと」。会議では、鄧氏から、自分のせいで抗議活動が激化したとも非難されたという。

 その2日後、天安門広場(Tiananmen Square)では、学生らに抗議活動をやめるよう涙ながらに訴える趙氏の姿があった。公の場で趙氏が見られたのは、これが最後となった。戒厳令が出されたのはその翌日のことだった。

 趙氏の側近の1人で、自身も天安門事件以来何度も拘束されてきたBao Tong氏は、「趙氏の声はまだ生き続けている」と話す。「最悪なのは、すべてが封じ込まれ、(天安門事件に関する)議論が禁止されること。政府がそんなことをしたら、人民は政府に対し一層の敵意を抱くことになるだろう」

 Bao氏の息子、Bao Pu氏は香港で出版会社New Century Pressを経営しており、中国語版を19日に中国で発売する予定だが、香港ではすでに本棚に並んでいるという。

 父と息子は、中国本土での発禁処分を想定し、対策を練っている。「何があろうと、この本は出版されるべきです」とBao Pu氏は語った。(c)AFP/Marianne Barriaux