【3月31日 AFP】米国生まれで英国に帰化した詩人・批評家のT・S・エリオット(T.S. Eliot)が出版社に勤務していた当時、英作家ジョージ・オーウェル(George Orwell)に対し、小説『動物農場(Animal Farm)』は「トロツキー主義者」の小説で、視点に説得力がないと批判し、その出版を断った書簡がこのほど公開された。

 当時、英大手出版社フェイバー・アンド・フェイバー(Faber and Faber)に勤務していたエリオットは1944年、まだ若かったオーウェルに対し、その後近代英文学の古典的作品となった『動物農場』の出版を退ける手紙を送った。

 スターリン主義に基づいた当時のロシアの共産主義を風刺した小説だと今ではみなされている『動物農場』は、エリオットが出版を却下した翌年、第2次世界大戦の終結後にようやく出版された。

 オーウェル作品の多くを手がけた出版社ゴランツ(Gollancz)に出版を断られ、若いオーウェルはこのとき、大手のフェイバー・アンド・フェイバーに賭けてみようとした。しかし、エリオットはこの小説に感銘を受けず「わたしには概してトロツキー主義者のものとしか思えず、説得力に欠ける。現在の政治状況を批判するのにこれが的確な視点だという確信をわが社では持たない」とオーウェルに書き送った。

 さらにエリオットは「結局、『ブタ』たちの知性がほかの動物たちに大きく勝ったので、ブタたちが農場経営に最も適したのだ。むしろ、このブタたちがいなければ動物たちによる動物農場はありえなかっただろう。つまり必要だったのはさらなる共産主義ではなく、もっと公共精神に富んだブタだったのだ(と主張する者もいるだろう)」と続けている。

 オーウェルの作品の中でも著名な『動物農場』は、人間から農場を乗っ取った動物たちのグループが、最初は迫害者から自由になったと信じていたものの、ナポレオンという名のブタが率いるブタのグループが次第に新たな圧政を敷いていくというストーリー。1917年のロシア革命がその後、ソビエト連邦下で新たな暴政に転じたさまを寓話化したものとみなされた。
 
 一方、エリオットは1948年にノーベル文学賞を受賞した。オーウェルに対するこの書簡は、82歳になるバレリー・エリオット(Valerie Eliot)夫人が、近く放映される英BBC放送のドキュメンタリーのために公開した。(c)AFP