【2月20日 AFP】どん底からレッドカーペットへ舞い戻った2人の男がいる。22日に発表される第81回アカデミー賞(Academy Awards)にノミネートされているミッキー・ローク(Mickey Rourke、56)とロバート・ダウニー・Jr(Robert Downey Jr.、43)だ。

■成功、そして転落

 2人は1980年代に、世界にその名を知らしめた。数々の名作で見せた演技は、2人の明るい未来を保証しているかのようだった。

 しかし、90年代になると、ロークはその自滅的な性格から数々の問題を起こし、一方のダウニー・Jrは薬物乱用で罪を重ね、1年近く刑務所で過ごしたこともあった。

 90年代、ダウニー・Jrが薬物乱用と闘っていたころ、ロークは『ランブルフィッシュ(Rumblefish)』『悪の華/パッショネイト(The Pope of Greenwich Village)』『ダイナー(Diner)』などの演技でマーロン・ブランド(Marlon Brando)と比較されるほどだったキャリアを、徐々に崩壊させていった。

 91年、ロークはプロボクサーになるため俳優活動を減らすと宣言した。報道によれば、ボクシングのため後に顔の整形手術をしなければならなくなったという。

 2000年までにロークとダウニー・Jrは、映画業界の多くの人が成功の見込みはないと考えられるほどになっていた。2人の常軌を逸した行動から、業界関係者は出演させるという賭けには出ようとしなかった。

■アカデミー賞好みのストーリー

 だが、ハリウッド(Hollywood)は何よりも復活劇を好む。2人は22日、コダック・シアター(Kodak Theater)で開かれるアカデミー賞授賞式に出席し、オスカー獲得を狙う。

 ロークは、『レスラー(The Wrestler)』で、実在したプロレスラー「ラム(The Ram)」ことランディ・ロビンソン(Randy Robinson)を演じ、主演男優賞にノミネートされている。この役は、まるでローク自身の人生を鏡に映したかのようだ。

 南カリフォルニア大学(University of Southern California)大学のコミュニケーション学部長ラリー・グロス(Larry Gross)氏は、「アカデミー賞が好むシンデレラストーリーというものがある」と説明する。グロス氏は、ロークが「落ちるところまで落ちて自力ではい上がるロッキー(Rocky)」のようなものを感じさせてくれるので、今回のオスカーノミネートを予想していたという。

 一方のダウニー・Jrは、『トロピック・サンダー/史上最低の作戦(Tropic Thunder)』でのコミカルな演技で、助演男優賞にノミネートされている。ダウニー・Jrが演じたのは、役作りに徹底して取り組む映画スターで、アフリカ系米国人兵を演じるために皮膚の色素沈着手術までも行ってしまう。

 1992年の『チャーリー(Chaplin)』以来、2度目のオスカーノミネートとなったダウニー・Jrだが、今回のノミネートは皮肉にあふれている。

「わたしが演じたのは、表彰されることだけが演じる動機だという、オスカーに取り付かれた変人なんだ。笑えるだろう。皮肉なものさ」とダウニー・Jrは語っている。

■それぞれの復活劇

 ロークは1月のゴールデン・グローブ賞(Golden Globe Awards)授賞式で主演男優賞を獲得した際、報道陣に対し、「おれは体制を叩きのめそうとしたが、その体制にこてんぱんにやられた」と語った。

 ロークは、ロバート・ロドリゲス(Robert Rodriguez)監督の『シン・シティ(Sin City)』に出演した2005年ごろから再浮上を始めた。

 オスカーノミネートを受けてロークは先月、「長い間、場外にいた。10年もたって、またゲームに参加できるとは思っていなかった。とてもありがたい。この職業は何年も一生懸命がんばれば、もう一度チャンスがやってくるんだということを教えてくれた」と語っていた。

 一方のダウニー・Jrは、2007年のアカデミー賞授賞式に視覚効果賞のプレゼンターとして登場した際、自分の薬物問題をネタにした。

「視覚効果のおかげで、宇宙人を見て、宇宙を体験し、スローモーションで動き、クモが高層ビルを上る姿を見ることができる。90年代半ばのわたしは、平日の夜にいつもそんな体験をしていたが」

■「おもしろい物語」を求める人びと

 ニューヨーク(New York)にあるシラキューズ大学(Syracuse University)のポップカルチャーの専門家ロバート・トンプソン(Robert Thompson)氏は、ダウニー・Jrとロークの復活が注目されるのは、人びとが「おもしろい物語」を期待していることの表れでもあると説明する。

「かつてのスターという立場から転落し、そこからはい上がってくるという人たちをわれわれはよく知っている。有名人の物語にはこれまでもそういった役割の人びとがいた。だからそれをおもしろいと思うんだ」(c)AFP/Tangi Quemener