【2月22日 AFP】過去100年間、石油に依存し続けてきた世界の自動車メーカーたちが、その束縛から解かれようと先を争う中、中国の比亜迪汽車(BYDオート、BYD Auto)が電気自動車市場でのリードを耽々(たんたん)と狙っている。

 わずか14年前に創業したBYDオートは自動車用バッテリー製造で成功、昨年末にはプラグイン型ハイブリッド車の世界初大量生産車を販売開始し、2011年には欧米市場へ打って出る。

 BYDの上級幹部ヘンリー・リー氏はインタビューで「今後5年から10年は大きな変化の時期だ。(自動車の)電動化はわれわれの想像よりずっと早く起こるだろう」と語った。

 リー氏の予測通りになることを望むのは、米著名投資家ウォーレン・バフェット(Warren Buffett)氏のようなBYDへの出資者ばかりではない。それを切実に求めているのは、何といっても地球だ。一方で各調査で中国は温室効果ガスの最大排出国と名指しされている。

 道路には電気自動車があふれ、充電ステーションでは現在のガソリンスタンド並みの早さで再充電できる――「あなたの夢を築こう(Build Your Dreams)」を社名とするBYDオートが描く未来像だ。しかし、現在の電気自動車生産はまだコストが高く、技術的課題もあり、未来像の実現まで道のりは長そうだ。

■世界初・大量生産プラグイン型ハイブリッド車「F3DM」、市場へ

 3月から、世界初の大量生産プラグイン型ハイブリッド車「F3DM」の出荷が始まる。「DM」は2つの動作モードを表す「デュアル・モード」からとった。F3DMは1回の充電分でバッテリー走行では100キロ、ガソリンとの混合モードならば580キロの走行が可能だ。

 F3DMのターゲット顧客は、小型ハイブリッド車を複数台購入し、充電のための特別設備を設置する余裕のある企業だ。一方、ハイブリッド車が個人の購入者をどれだけつかめるかについては、まだ見通しがきかない。個人向け市場本格化には、充電ステーションが商業的に成立するために十分な台数までハイブリッド車が普及することがまずは不可欠だ。

 産声もあげていないような中国国内のニッチ市場を開拓してきたところから、積極的に国外進出し、やはり電気自動車の開発に本腰を入れている米ビッグスリーらとしのぎを削るのは、極めて大きすぎる飛躍にも見えるかもしれない。

 米自動車産業のメッカ、デトロイト(Detroit)で1月に開かれた北米国際自動車ショー(North American International Auto Show)で、BYDの王傳福(Wang Chuanfu)主席が「2年以内に欧米市場での販売を開始する」と宣言した際には、ライバル各社はそろって疑念を呈した。

 BYDがバッテリー製造から自動車生産に参入したのは2003年。経験の浅さでは不利だろうが、そのユニークな沿革から電気自動車市場の競争では最も有利なポールポジションを取りうると、北京を拠点とする自動車評論家のJia Xinguang氏は言う。

 中国政府の後押しもある。世界的な経済危機下で、政府は自動車業界の救済措置を打ち出しているが、BYDはこの恩恵にもあずかるだろう。支援策の詳細はまだ不明だが、無公害車に対する助成金となる見込みで、これによって、仕様が同程度のガソリン車の約2倍、15万元(約200万円)に設定されているF3DMの価格が引き下げられることもあり得るという。(c)AFP/Peter Harmsen