【2月13日 AFP】2008年のノーベル経済学賞(Nobel Economics Prize)受賞者のポール・クルーグマン(Paul Krugman)氏は11日、「コントロール不可能」な現在の経済危機から米国が脱出するには、ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)政権が掲げた「小さな政府」の基本政策から離れ、公共投資を促進することが最も効果的な刺激策になると述べた。

 労働関係の経済研究所などが共催したワシントンD.C.(Washington D.C.)でのシンポジウムで、クルーグマン氏は、現在の不況はある意味では、(レーガン政権下の)1982年の世界経済危機ほど深刻ではないと言えるが、種類が違うと指摘。「現在の危機はコントロール不可能で、回復に向かう自発的なメカニズムがあるとはまったく考えられない。今後も大きく低迷すると思われ、その状態が定着することが深く懸念される」と述べた。

 またクルーグマン氏はデフレへとつながる危険性もあり、そうすればさらに支出や投資に歯止めがかかり、経済は「根本的に泥沼にはまり込む」恐れがあると警告した。
  
■「財政支出は現在よりも2~3倍の効果」

 クルーグマン氏はレーガン政権以来の米政府の経済政策を振り返り「過去30年間常に減税と歳入削減へのプレッシャー、財政支出に対する抵抗が存在していた。政府は解決をもたらすものではなく、障害だとみる政治動向が支配的だった」と指摘した。

 しかし、現在の危機の中で、需要をてこ入れし、これ以上の下降を回避できる機関は政府だけだとクルーグマン氏は言う。「経済面での政府の役割を強化するあらゆる試み」、つまり財政支出、特にインフラへの歳出を増やすほうが、多くの共和党員や保守派が支持する減税策よりも2~3倍の効果があるだろうと主張した。

 また、財政支出が増えることに対する嫌悪感や恐怖の克服は難しいだろうが、財政支出の効果的な面に関する「議論を再開するのに今回の危機は良い機会だ」と述べた。

■新金融安定化策でさらに金融機関破たんの恐れも

 ティモシー・ガイトナー(Timothy Geithner)米財務長官は10日、官民が協力して金融機関の不良資産を買い取る新制度を柱とした、新たな金融安定化策を発表した。

 しかし、クルーグマン氏は、自己資本状況を調べて救済対象をふるいにかける「ストレステスト」に基づけば、破たんする主要金融機関も出てくるだろうとみる。金融機関が保有するリスクの高い不動産資産についてクルーグマン氏は「問題は不良資産ではない。金融機関の損失があまりに大きいことと、それも大銀行であることだ。支払い不能、とはいかないまでもそれに非常に近い」

 ストレステストによって、救済対象からもれる金融機関は5~7件に及ぶとクルーグマン氏は述べ、それらはもっと規模の小さな銀行に対する措置と同様の手続きを踏み、破産管財人の管理下に置かれることになるだろうと指摘した。(c)AFP