【2月11日 AFP】生卵、クリームパイ、腐ったトマト― これまで伝統的に政治家に投げつけられてきた「武器」に最新兵器が加わった。政治家を辱める絶好の武器として最近、急速に人気を集めているのは「靴」だ。

 英国のケンブリッジ大学(University of Cambridge)で2日、講演中の中国の温家宝(Wen Jiabao)首相に、ドイツ人のマーティン・ヤンケ(Martin Jahnke)被告(27)が靴を投げつける事件があった。公共秩序法違反に問われたこの青年は、10日にケンブリッジの治安判事裁判所に出廷して無罪を主張したが、「次は自分か?」と考えた各国首脳は少なくないはずだ。

 アラブ社会で靴底は最高の侮辱とみなされる。2003年にイラクで引き倒されたサダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領の銅像を踏みつける市民の映像を見た時に初めてこの事実を知った欧米人は多いだろう。

 だが、靴投げによる侮辱行為を世界中に知らしめたのは、昨年12月14日、バグダッド(Baghdad)を訪問中だったジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領(当時)に靴を投げつけたイラク人記者、ムンタゼル・ザイディ(Muntazer al-Zaidi)被告(29)の功績だといってよいだろう。

 以来、英国では靴を投げる抗議行動が大流行。反戦団体がロンドン(London)の首相官邸前やエディンバラ(Edinburgh)の米国領事館などで靴を投げ、抗議行動を展開した。

 しかし、ケンブリッジ大での温首相への靴投げ事件を機に、「靴投げ」による侮辱対象は反米や反戦の枠をこえて広がった。

 5日には、スウェーデンのストックホルム大学(Stockholm University)で講演中だったイスラエルのベニー・ダガン(Benny Dagan)駐スウェーデン大使に靴が投げつけられた。3日に1度は世界のどこかで要人に靴が投げられている計算だ。

 この新たな慣習がこのまま拡大を続けた場合、どのような事態が待ち受けているのだろうか。熱狂的な流行がおさまるまでは、すでに被害にあった米国大統領、中国首相に続いて、そのほかの国の首脳や、それほど重要ではない人物まで薄汚れた靴の洗礼を浴びるのだろうか。首脳級とはいえないダガン大使がターゲットになったことを考えれば、潜在的なターゲットは確実に広がっていそうだ。

 国によっては靴は高価な品でもあり、世界が景気後退局面に入った現在、投げつけられる靴の品質低下は避けられない。履き古したスニーカーを、ゴミ箱に捨てる前の記念に誰かに投げつける、ということになるのかもしれない。(c)AFP/Robin Millard