【12月23日 AFP】インド人男性が誇らしげにたくわえているあごひげや口ひげの写真集が、英国人の手によりこのほど出版された。写真集は、この国で何世代にもわたり受け継がれてきた「ひげ」の文化が消滅の危機にさらされている事実を、見る人に突きつける。

 ニューデリー(New Delhi)で旅行会社を経営する英国人のリチャード・マッカラム(Richard McCallum)氏(30)は、ひげの文化が永遠に消滅する前に記録しておこうと思い立ち、写真家のクリス・ストワース(Chris Stowers)氏を伴って、数か月の撮影旅行に出かけた。

 2人は各地の市場や祭りに出かけ、辺ぴな村にも足を運び、「立派なひげ」を撮影して回った。できあがった写真集が、『Hair India -- A Guide to the Bizarre Beards and Magnificent Moustaches of Hindustan(ヘア・インディア -- ヒンダスタンの奇抜なあごひげ、堂々たる口ひげガイド)』だ。

「最初はちょっと楽しむつもりが、ひげにすっかり魅了されてしまった。ひげは現代インドの変遷を物語る。西洋化・均質化される一方で、偉大な伝統、それを見せびらかしたい気持ちがいまだに存在していることもわかる」とマッカラム氏。「ひげの手入れはインド人男性の重要な身だしなみ。ひげを話題にすることで、これまで会ったことがないような人びととの会話も楽しむことができた」

■写真撮影の裏側

 写真集は数百枚のカラー写真で構成され、スタイルにより「あごひも風」「こし器風」「空軍中佐風」「セイウチ風」などに分類されている。1.6メートルの世界最長あごひげ、約4メートルの世界最長口ひげの写真もある。

 世界最長の口ひげの持ち主であるRam Singh Chaumanさん(54)は、ボリウッド映画、そして1983年の『007/オクトパシー(Octopussy)』にもゲスト出演した一種の「スター」だ。ちなみに彼は、写真撮影にあたりモデル料を要求した。

 だが、写真集に登場した人の多くは、露天商やリキシャの運転手など、ごく普通の人びとだ。なかでも、髪の毛やひげを切ってはいけないというおきてがあるシーク教徒が大半を占める。

 写真を撮らせて欲しいと言うと、警戒する人は多い。そのためマッカラム氏とストワース氏も、自らカミソリを放棄した。マッカラム氏はあごひげを伸ばし放題にし、ストワース氏は、たくわえた自身の口ひげの先端をヤギのようにカールさせた。

■「ひげ」衰退の背景は

 5つ星ホテルのドアマンには、いまだに、口ひげをたくわえていなければならないという要件がある。だが、ひげは男らしさの象徴という伝統的な考え方は失われつつあるようだ。ニューデリーのある高級レストランのドアマン(40)は「若者たちは、ひげはむずがゆい、老けて見える、などと言ってひげを伸ばしたがらない」と嘆く。

 マッカラム氏は、ひげが敬遠されるようになってきた別の理由として、「手本となるような人物がいない」ことを挙げる。「このごろは、ボリウッドのスターたちもクリケットの選手たちも、『おしゃれな無精ひげ』の範ちゅうから出ようとしない」(c)AFP/Ben Sheppard