【11月10日 AFP】世界遺産「プレアビヒア(Preah Vihear)寺院」遺跡周辺の領有権をめぐるカンボジア、タイ両軍の対峙が銃撃戦へと発展して数週間が経つが、カンボジア軍の兵士たちは、「装備はタイ軍が勝るが、自分の身はピンク色の『魔法のスカーフ』が守ってくれる」と自信たっぷりだ。

「タイ軍は近代兵器を持っているが怖くない。お守りがあるから」と話すのは、頭に魔除けのスカーフを巻き、お守りの入ったベルトを締め、小さな仏像2体を携帯する28歳の兵士。「旧ポル・ポト派(クメールルージュ、Khmer Rouge)の残党と数え切れないほどの戦闘をしたけれど、危険な目に遭ったことは一度もないよ」と魔除けの力に信頼を寄せる。

 7月に国境沿いで始まったタイ軍とのにらみ合いでは、装備で圧倒的に優位に立つタイ軍に対し、カンボジア軍兵士らは自国の護身の風習にならって仏像を身に着け、魔除けの呪文を体に入れ墨した。カンボジア軍では司令官からも、仏僧がまじないをかけたという魔除けの印を描いたスカーフが配られた。

 お守りや護符を持つ習慣や迷信は、世界中の兵士に共通して見られるものだが、1998年まで何十年も続いた内戦で戦闘に慣れきったカンボジア軍兵士たちが絶対的に信用するのは、護身の入れ墨と魔法のシンボルだ。タイ軍が野営する丘の下で待機していた別の兵士は「戦闘中、こうした魔法がぼくの命を救ってくれると100%信じている」と語った。

 兵士たちと異なり、カンボジア政府には、自国領の防衛を魔法に頼ろうという意志はないようだ。国境をめぐる対立が続くなか、政府は国内の困窮状態にもかかわらず、次年度の軍事費を5億ドル(約500億円)へと倍増することを決定した。

 それでも、10月の戦闘中に自分の司令官を亡くした38歳の兵士は、それ以来、いっそうお守りの力を信じるようになったと言う。「司令官も魔除けを持っていたが、仮眠を取ろうとしてそれを外したんだ。銃撃戦が突然始まったときには、魔除けを着けなおしている暇はなかった。だから、死んでしまったんだ」。

 駐留するカンボジア軍兵士のため、これまで数え切れないほどの魔除けベルトを作った紛争地域内にある寺院の院長は、「お守りに弾除けの効果があるかどうかは分からない」と首を傾げる。

 しかし、10月の戦闘中に、奇跡のようなことが起きたのは確かなようだ。院長は続けてこう言った。「(10月に)戦闘が始まったとき、わたしは僧たちの寝所にいたが、まるで脱穀するときのもみ殻のように寺院中を弾が飛び交っていた。それでもわたしたちのいた寝所には、一発も当たらなかった」。(c)AFP/Suy Se